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・幕まえ



 この物語を読み始めていただいた奇特なあなた、本当にありがとうございます。僕の名前はエウティッポス、とある方からこの物語の語り部を仰せつかりました。文学の才能も教養もほとんど持ち合わせていない僕ですので上手く物語れるはず無いと思うのですが、あの方に命じられたからには仕方ありません。一生懸命務めさせていただきますので、どうか途中まででもお付き合いいただけたら幸いです。


 それでは改めまして、まずはこの物語の発端からお話いたしましょう。



 この僕はとても平凡で取るに足らない人間だけど、ただ一つ、あのキモン君と親しい友達だということだけがきっと特別なことです。キモン君のお父さんはかの有名なマラトン(萩)の戦いでアテナイ(山口)軍を総指揮し、夷狄の侵略軍を見事退けた生ける英雄ですから、まさにヘラス(大和)民族の希望、輝ける一番星、その名をミルティアデスさんとおっしゃいます。数年前まではトラキア(陸奥)地方にあるケルソネソス(津軽半島)を代々支配していた名門・小早川ピライオス家のご当主で、僕の家も代々お仕えしその覇業をお手伝いしたというのがささやかな自負です。


 それはともかく、この小早川ピライオス家にはまるで運命の神様が常についているかのように、一般人には味わえないような本当に凄い事が次々と起こるものだから、ミルティアデスさんやキモン君のそばに居るだけで、こんなつまらない僕でさえまるで神話や演劇の中で暮らしているかのような、その登場人物にしてもらえたかのような、本当にそんな気分にさせられる方々です。



 そして、マラトン(萩)での戦いが大勝利に終わったあとの一年も、短くはありますが、決して忘れることが出来ないほどの劇的な一年でした。


※ この物語の本文において、古代ギリシャの地名に日本の地名等を併記させていますが、これは古代ギリシャにあまり詳しくない方向けに日本の似ていると思われる地名等を適当に添付してみただけのもの(例:「アテナイ(山口)市」「アッティカ(長州)地方」など)ですので、必要ない方は無視していただいて問題ありません。


※ 古代ギリシャ世界には統一された暦がなく、唯一それに相当するものとしては「オリンピックの第○回目の第○年目」という表記法がありました。そこで、この物語ではオリンピックの第一回目が開催された年(紀元前七七六年)から数える方法(例:O-286年(=初開催から二百八十六年目の年)、O-287年(=初開催から二百八十七年目の年)など)で表記しています。


※ 古代ギリシャ世界の一年の区切りは基本的に夏でしたので、現在我々が使っている西暦では二年に跨がることになってしまうため、例えばO-286年の年は「紀元前490/489年」、O-287年の年は「紀元前489/488年」などと表記する慣例になっていますので、この物語でも「O-286(紀元前490/489)年」や「O-287(紀元前489/488)年」というような形で表記しています。

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