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記憶の向こうに香る闇  作者: 和泉 利依
エピローグ
67/67

- 2 -

 壮絶なまでに美しいその笑顔に見惚れていると。


「早川ー?」

「あ、ごめーん」

 向こうで呼ぶ藤井君に返事すると、彼が聞いた。

「彼氏?」

「違います! あれは友達ですっ。私、ここのところずっと落ち込んでいたから、みんなが気晴らしにって映画に誘ってくれて、だから二人だけってわけじゃなくて……」

 だんだんと声がしりつぼみになってうつむいてしまう。


 通りすがりの人に私ったら、なんで真剣にこんなこと言い訳してるんだろう。

 でも、なんとなくこの人に、あれを彼氏だと誤解されたくはなかった。別に、ナンパされてるわけでもしてるわけでもないのに。自信過剰かな。やだ、なんか恥ずかしい。


 そっとその男の子を盗み見ると、彼は変わらず優しく微笑んでいた。

「元気なかったの?」

「……最近、友人が……親友が亡くなったから……」

「ああ……。ごめん。無神経なこと聞いちゃって」

「ううん。いいの」

 なんとなく、私は手の中にあるバラのストラップを見つめた。微かに、赤がぼやける。

 いけない。知らない人の前で泣くわけにはいかない。

 私は、無理やり笑顔を作った。


「それは悲しいことだけれど……、でも、彼女を大好きだった気持ちはいつまでも変わらないし、私は彼女のことを絶対に忘れない。これからね、彼女の代わりに私が、たくさんの夢を叶えていくことにしたの。だから、悲しくても私がちゃんと生きなくちゃ。いつまでも落ち込んでたら、きっと彼女に怒られちゃう」

「……そうだね。きっとその親友も、君が幸せに生きることを望んでいるよ」

 そう言う彼の声の方がまるで泣いているように聞こえて、ついその顔をまじまじと見てしまった。

 私の視線に気づいたらしい彼が、にっこりときれいな笑顔に戻る。

「時間とらせちゃったね。じゃ」

「いえ……さよなら」

 彼は軽く片手をあげ、私はお辞儀をして、お互い反対の方へ歩き出した。 二、三歩行ったところで、ふと、足をとめる。


 甘い香りが、微かにあたりに漂っていた。


 ゆっくりと、振り返る。

 もうそこに彼はいなかった。


「おーい、行くぞー!」

「……はーい!」

 なんでそんな気持ちになったのかわからない。


 急に胸に押し寄せた切なさを振り切るように、私は駆け出した。



fin 

長い間、お付き合いいただきましてありがとうございました。おかげさまで、無事、終了させることができました。よろしければ、感想などいただけたら嬉しいです。あの、できれば、お手柔らかに……

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