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赤い引き出し


 時間がゆっくり過ぎる。

 家の前を通る中高生がうるさい。

 この雑誌は何回読んだのか知れない。

 いくみも飽きずにずっと英語の教科書を読んでいる。

 …と思っていたが、さすがに飽きて教科書を閉じた。

「ねえ、他の本無い?」

「そこにあんだろ」

 本棚を指差す。

 本棚を一通り見て、いくみは不満そうな声をあげる。

「ヤダ。

 日本語って面白くない」

 …英文が読みたいわけか。

「我慢しろ。いやなら帰れ」

「………」

 いくみはしかたなさそうに英語の教科書を再び開いた。


 そしてまたゆっくり時間が過ぎる。


 いくみが口を開く。

「ねえ。引き出し見たら駄目?」

「駄目」

「なんで?」

 別に俺としてはいいけど…さすがにショックでかいだろ…

「見てもいいけど、自己責任だからな」

「???…じこせきにん?」

「自分で決めろってことだ」

 あーもう面倒くさい。

「じゃあ開けるねー…」

 左の引き出しを開いて、いくみの身体がすこし跳ねたのがよく分かった。

 …やっぱりな…

「なにこれ…?」

「なにって………血」

 机の中には血糊がべったり。

 血糊のほかには果物ナイフが一つ。

「誰の血?」

「俺の血」

「なんで?」

「切った」

 右腕をいくみに見せた。

 もう一生残るだろう切り傷の痕を。

「痛くない?」

 まるで自分が痛いかのように顔をゆがませる。

 痛くない…?

 痛くないはずねえだろ?

 でも、その痛みが快感なんだよ。


『狂ってる……あんた、狂ってるわ』


 そうだ。

 俺は狂っている。




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