黒色の最悪な朝
「まさとー!朝ー!」
…こいつ。
いくみが来てから俺は毎朝六時に起こされる。
その所為で朝から見たくもない両親の顔を拝まなければいけない。
「まさと起きたよ。お姉ちゃん」
俺を起こしたことを得意げに姉貴に報告する。
「よしよし。大変良くできました!」
姉貴が満面の笑みで頭なんか撫でるから、コイツは余計に調子に乗る。
朝からイライラしながら、食卓につく。
座って、顔を少し上げれば親父の顔。
アイツ―”母親”。”母さん”なんて呼んでいたのはかなり昔―は仕事の為にもうでて行ったみたいだった。
親父のむっとした様子が、顔を見なくても分かる。
「正人」
「………」
「正人!」
うるせえ…わざわざ怒鳴んな。
「返事をしなさい」
やだね。
何でお前なんかの命令を聞かなけりゃなんねーんだよ。
「どうしてお前は…!」
次にくる言葉なんて限られている。
親父が口を開く前に、姉貴が先手を打つ。
「父さん!会社遅れるよ!」
その言葉で親父は勢いよく立ち上がり、乱暴な足音を立てて出て行った。
いくみはその様子をただ見ていただけで、驚く様子も無かった。
「全く…小さな女の子の目の前で何やってんのよ。あのバカ親父…」
姉貴が毒づく。
そして腰を折っていくみと目線を合わせる。
「ごめんね。怖かった?」
いくみは首を振る。
「そう…いい子いい子!」
がしがしと頭を撫でられると、いくみは本当に嬉しそうな顔をする。
「いくみちゃん。お姉ちゃん、正人とお話あるから、正人の部屋へ行ってもらえる?」
その言葉を聞きながら味噌汁や白米を口の中に放り込む。
「うん!わかった!」
屈託の無い笑顔で答えると、いくみは階段を軽快に上って行った。
足音が真上に来たのを確認して姉貴はため息をつく。
「正人…あんたもあんたよ」
…お説教かよ。
「あんたの気持ちはわかる。
”あんなこと”があったら、私だって…」
「わかってんなら、わざわざ言うなよ」
「でもね、過去のことをいつまでも気にしてたらどうにもならないでしょ?
このままで、あんた…」
「………」
「…高校どうするのよ…」
またこの話か…
もうほっといてくれ。
「行く気…ない」
「私は、学歴なんか…そんなに気にすることじゃないと思ってる。
……でもね、世間は甘くない…
中卒で雇ってくれるようなところなんて、限られているし…それに…」
「………」
「それに、あんたも男でしょ?
結婚する際、男の方が学歴のことか、とやかく言われやすいのよ」
そんなの、どうでもいい。
めんどくさい。
生きていることすら、めんどくさい。
『お前なんか、十円の価値も無いんだよ!』
ああ、そうだな…
十円の価値も無い…




