揺り籠から墓場へ
2026-5-5
「よお。みのり」
「あら鴫谷君じゃない。おめでとう」
「は?」
「いや今日は何ともめでたい日ね」
「え?」
「今日というめでたい日を共に過ごせて光栄だわ」
「マジで何?怖いんだけど」
「今日は何の日かご存じじゃないの?」
「こどもの日だろ」
「半分正解ね。何の節句かしら?」
「知らん」
「端午の節句よ。無知なのね」
「一言多くない?」
「端午の節句は男の子の成長を祝う日よ。だからめでたいの」
「え、待ってお前。俺のこと『男の子』って解釈してる?もう高校生だぜ?」
「私からすれば、男の子はいつだって男の子よ。たとえ何歳であろうとも、ね」
「思想デカいなお前」
「もしかしてひな祭り祝ったほうがいい?」
「当然じゃない。女の子はいつだって女の子なのよ」
「敬老の日のことを何だと思ってるんだ?」
「おじいちゃん・おばあちゃんを祝う日じゃない」
「男の子も女の子も、何歳でも男の子で女の子なんだろ?」
「ええ」
「両立するの?」
「もちろんよ。男の子なおじいちゃんだっているじゃない」
「いないよ?」
「でもカツオはあの歳で叔父ちゃんじゃない」
「叔父ちゃんは別に歳食ってる必要ねえだろ」
「…いつだって、心は若者なのよ」
「あ、逃げたコイツ」
「ところで鴫谷君」
「どうした」
「私を家に呼び出しておいて、何のつもりかしら?」
「ああそうだ。忘れてた。ちょっと校外学習のことで話したいことあって」
「校外学習?私聞いてないわ」
「嘘だろお前。それはさすがに無理だろ」
「もし私が、ホームルームをすべて欠席していたとしたら?」
「とんだバケモノだな、と思う」
「冗談よ。全て爆睡していたから記憶がないだけよ」
「とんだバケモノじゃねえか」
「おかげで班員が誰なのか、いったいどこへ行くのか。さっぱりわかんないわ」
「自業自得じゃねえか」
「自業自得って言葉、文面で見たら得してるように見えない?」
「それはちょっとわかるけど」
「自分の業績で自分が得をする。こう書いて自業自得じゃない。気に入ったわ。今度から自業自得系女子を名乗って生きることとするわ」
「ちょっと合ってるんだよな。まさに自業自得だしお前」
「それで、校外学習の話って何かしら?待ちくたびれちゃったわ」
「自業自得じゃねえか。あー。あれだよホラ。うちの学年さ、来なくなった奴いっぱいいるじゃん?」
「ええ」
「一緒に班組もうぜってなってた友達もさ、来なくなっちゃったのよ。まあそいつサッカー部だし。しゃーないんだけど」
「あなた友達いたのね。お赤飯炊かなきゃ」
「ずっといたよ?でな。なんか別に仲良くもない奴と一緒に横浜周るってのもおもんないよなって思って、サボろうと思うんだよね」
「あら、いいんじゃない?その程度のことを話しに来たの?」
「いや、まあ違って。続きがあるんだよ」
「何かしら?」
「一緒にサボらね?」
「え?」
「一緒にサボってさ、どっか適当なとこ遊び行かね?」
「あら。情熱的なお誘いね。駆け落ちみたいなことかしら。そういえば、『ギザギザハートの子守唄』にこういう歌詞あったわね」
「それは知らないけど。それでお返事は?」
「いいじゃない。その話、乗ったわ」
「よっしゃ。ありがとな」
「感謝はいらないわ。で、どこへ連れ出すつもりかしら?」
「横浜だよ」
「…何を考えてるのかしら。鴫谷君。あなた、自分のことおしゃれだと思ってない?」
「なんでさ。微塵も思ってないぞ」
「ここから行ける場所なんて山ほどあるじゃない。なんでわざわざ、校外学習をサボって、校外学習の行き先と同じ横浜に行くの?」
「いいじゃん別に。横浜行ったことないし」
「あなたって人はほんとにもう。呆れたわ」
「みのりは横浜行ったことある?」
「あるわ。ハマの番長といえば私のことを指すわね」
「三浦大輔だろそれは」
「ハマのプーさんも私のことになるわ」
「宮崎敏郎だろ」
「併せてハマの金太郎と言われているわ」
「熊負けてない?」
「そういう日もあるの。細かいことなんて気にしちゃダメよ。ところで、横浜のどこへ行くつもり?」
「ああ。まー、うん。あんま決めないでいいかな」
「珍しいわね。千葉のカッチリマンなあなたが」
「知らない二つ名勝手に付けられるのって思ったより怖いな」
「まあいいんじゃない?都会なんか、歩いてるだけで楽しいじゃない」
「じゃあまあ、そういう感じで」
「あ、私絶対中華街行きたいわ。そこだけは譲れない」
「じゃあ昼は中華街で食おうか」
「それじゃあ決まりね。楽しみにしてるわ。駅集合でいい?」
「ああ、そうしよう。九時半。改札前で」
「ところで、校外学習は何日にあるのかしら」
「えぇ…。あ、そっか。お前話聞かないもんな。知ってるわけないもんな」
「その通りよ。何か?」
「なんだコイツ。ああ、再来週の木曜だよ」
「あら、案外遠いわね」
「でもその前にテストがあるぞ」
「あら」
「テスト勉強してる?」
「一切」
「潔いな。ところで、学年末考査の成績は?」
「クラス4位よ」
「こんな奴が賢いのが一番腹立つんだよな」
「失礼ね。私は要領がいいの。授業の段階で、テストに出そうなところは覚えておくの。直前になって焦って詰め込み始めるどこぞの男とは違って、ね」
「悪口じゃん」
「誰とは言っていないわ。それとも何?この私が、要領が悪くてそこまで賢くないのに賢ぶって難しい問題に手を出した結果、収拾がつかなくなって涙目敗走しそうな幼馴染の悪口をいうとでも?」
「言ってるじゃん。ガッツリ。長々と。口悪っ」
「美しいバラには棘があるものよ。油断して触ったあなたの…」
「自業自得だろ」
「ちょっと鴫谷君?」
「はい。なんでしょうか」
「自業自得系女子みのりちゃんの華々しいデビューを汚さないでくれるかしら?」
「はい?」
「どう考えても私のキメ台詞がカッコよく決まるところでしょう?」
「いやいやそれはさ。読まれやすいオチを話そうとしたお前の…」
「自業自得だわね。決まったわ」
「そんなんでいいの?」
「私の行動の審判は常に私自身よ」
「そんなんでいいんだ…」
「それで、毎度恒例のテスト前勉強会はいつやるのかしら?」
「その、え?初耳なんだけど」
「あらいけない。勉強会はフレディと一緒にやるやつだったわ。ごめんね鴫谷君。希望を抱かせてしまって」
「フレディ?」
「ええフレディよ」
「フレディ・マーキュリー?」
「フレディ・フリーマンよ」
「ドジャースの?」
「ドジャースの、よ」
「つまり、お前はいつもドジャース戦を見ながら勉強してるってことか」
「そうとも言うわ。あなたも来る?」
「マジ?いいの?」
「ええ。クレイトンも『是非いらっしゃい』と言っていたわ」
「もう引退してるだろ」
「たまにベンチ横にいるわ。今週と来週の土日、好きな時間に来るといいわ」
「マジ?よっしゃ。アツい。勝ったわこれ」
「成績は保証しないわ。森塾じゃないんだから。何かあってもあなたの…」
「自己責任だな」




