それぞれの救い
「あーあ。言っちゃた。これでもう教会には戻れないじゃないか」
まるでイタズラがばれてしまった子どものように、カルロスは拗ねた、だけど軽い調子でそう溢して。
すとん、と。力が抜け、落ちるみたいに下がった銃口を見上げ、カルロスは笑った。
「それで? 君が知りたかったことは教えたけど、俺のことは見逃してくれるの? それとも殺す?」
──────俺を救ってくれるって言ったよね?
わざとなのか。
ゆっくりと、じっとりした声音が鼓膜にまとわりつく。
カルロスは何が楽しいんだろう。
この状況にも関わらず、終始、機嫌がよさそうだ。
今にも歌いだしそうなほど。
そこへ、堪えるような低い音が落ちた。
「殺したところでお前の罪はなくならない。ハゲに突きだす」
「ええ? 嫌だよ、そんなの。そしたら俺は裁判にかけられるってこと? それがカエラムの救い?」
「…………」
吹っ切れた様子のカルロスとは対照的に、いまだ現実を飲み込めないでいるルカは、どこか呆然と突っ立ている。
その様子に不安を覚える。
本当は今すぐにでも駆け寄りたい。
だけどそれは危険な気がするし、余計な火種を生む行為だと分かるから、なんとかぐっと両足に力を入れて堪えるのみ。
瞬きも忘れて、見守ることしかできない。
と、不意にカルロスが飛び起きた。
そう思ったときには既に、その手には銃が握られていた。
地面にあぐらをかく、その細長い背中だけが見える。
等身が高いため、カルロスの身体に阻まれてしまって、向こう側にいるルカの姿が隠れてしまう。
だけど彼に焦った様子はない。
声をあげることも、銃を奪い返そうともしなかったから。
「俺は誰にも救われたいと思わない」
ぽつりと、歌うような声だった。
そしてゆったりとした動きをもって、自身のこめかみに銃口をあてる。
「俺は俺を救うよ、カエラム」
澄み切った音はどこまでも晴れやかだった。
だけど、同時に悲しい。
「使徒も教会も、カミサマなんてクソ喰らえだ!」
心からの叫びが周囲に鳴り渡った瞬間、銃声が響き、細長い背中が横へ倒れていく。
地面が受け止めた体はそのまま。
もうぴくりとも動かない。
ルカはただ静かに見下ろしていた。
数秒、あるいは数分だったかもしれない。
長い時間、地面を見つめていた。
なんて声をかければいいのか。
その正解が分からなくて、すぐには足が動かなかった。
するとルカが上半身を前に折り曲げるような格好で腕を伸ばし、カルロスの手から銃をとったのが見えた。
そして修道服の内側へ突っ込む。
ルカがゆっくりとこちらへ歩いてくる、地面を踏む音が小さく鳴っている。
「お待たせ」
私の前で足を止めた彼は、柔らかい口調で口角だけを少しあげた。
「ううん」
頭を緩く左右に振るだけの私。
目の前の視線がすぐに地面へ落ちる。
その表情は何かを思案しているような面持ちで。
「父様に会いに行こうと思う」
そう呟いたあと、遅れて瞳が見上げてきた。
声音はとても静かなものだったけれど、その瞳には覚悟が宿っている。
「……私も行く」
真っ直ぐに瞳を見つめ返せば。
「言うと思った」
ふっと、ルカが困ったように笑う。




