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佇む影

「カルロス。お前に指示をだしてるヤツは誰だ。ハゲじゃないだろ」

「それを言ったら俺のことは見逃してくれるの?」

「……お前は罪を償うべきだ」

「罪、ねぇ」


 暗闇のなか。赤く点灯する看板には、買取と書かれていて、それがときどきチカチカと点滅する。

 血より暗いその明かりが、考え込むように押し黙った細身をわずかに染めている。

 対してルカの姿は闇に溶け込んでいて、その輪郭が薄らと見えるのみ。

 短い沈黙だった。


「君はそう言うけど、俺は救いだって言っただろう? やっぱり言葉じゃもう役不足なのか」


 心底、落胆した声だった。

 悲しくて悲しくてしょうがない。

 そんな風に語尾が下がって、かすかに震えていた。


「──────悲しいな」


 今にも消え入りそうな。

 揺らいでいた蝋燭の火がぱっと消えるかのように、低い音が落ちた。

 と、同時。

 カルロスが素早く修道服の内側に手を突っ込んだと思えば、その手にはもう銃が握られていて、あっという間に破裂音が一度だけ、空気を撃ち抜いた。

 ルカは微動だにせず、前だけを見据え続けている。

 気がつけば私の額には薄らと冷や汗が滲んでいた。

 心音はずっと早く、建物の隙間から路地のなかを凝視するしかない。

 まだ一度目の銃声が反響している。

 が、それが消えるよりも早く、また発砲。

 一発、二発、三発、四発、と。

 立て続けに響き渡るそれは建物の外壁を落とす。

 ルカは!?

 私の視界のなかには見当たらない。

 いや、見えないのだ。

 二人がどう動いて、何をやっているのか。

 おおよそ人間離れしたスピードに、目が追いつかない。

 五発目が発砲された。

 そのあと、ルカが地面に着地する背中が一瞬、見えて。

 でもすぐさま消えた。

 かと思えばこちらを向いているカルロスの顔面に回し蹴りを叩き込む瞬間が見えた。

 けれどそれは寸前で躱《かわ》され、カルロスが大きく後ろに飛び退くのが分かった。

 そしてまた、沈黙。

 耳鳴りがする。

 私からはもうルカの華奢な背中しか見えない。

 瞬きをした次の瞬間だった。

 ルカの前方から飛ぶように現れたカルロスが一気に距離を詰め、ルカの眼前めがて銃口を向ける。

 思わず、足が駆けだしそうになった。

 でもルカはそれを軽やかに右へと避け、ルカが立っていた場所に飛び込んできたカルロスの鳩尾を膝で蹴りあげる。

 一瞬よろけて後ろへ下がった体に、ルカは留めだとばかりに頬を殴り飛ばす。

 吹っ飛んできた体が、地面に倒れた。

 そこへ近づいたルカが、真上から銃口を向けた。

 カルロスが楽しそうに喉の奥で笑う。


「やっぱり強いなあ、カエラムは。だけど俺を殺したところで意味なんかないよ。また他の誰かが俺の代わりになるだけだ」


 おかしそうに「あはは」と笑い声をたてるカルロスに、ルカがはっきりと言葉を降らせる。


「安心しろ。お前で最後だ」

「ははは……っ! すごい自信だね」

「言え。お前の後ろにいるのは誰だ。誰から命令されてる」


 その声には、少しの懇願が見えた。

 頼むから言ってくれ、と。

 それは同じ使徒としての情なのかもしれない。

 一頻《ひとしき》り笑ったあと、カルロスは「あーあ」と、諦めたような、溜め息混じりの声を洩らして銃口を見上げていて。


「参った、参った。降参だ」


 まるで追いかけごっこで捕まったみたいに。

 そんな軽い調子で両手をあげ、もう敵意はないとばかり。

 それでも銃口はそこにいた。

 そしてカルロスが不意に呟く。


「猊下《げいか》だよ」


 軽い口調に、だけど時間が止まったかのような、確かに空気が動きを止めた。


「……は?」


 遅れて溢れた声が、震えている。



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