空にいちばん近い場所
「連れて行くって、なんで」
「そうよ、勝手に決めないで。私は帰る。もう二度とあんたたちみたいな教会の連中には関わりたくない」
今ばかりはカエラムが口にした「なんで」という問いに頷ける。
本当に、なんで。
薄くなりはじめていた夜が、だんだん明るくなっていく。
その白い光に透ける赤い髪。真正面からはっきりと拒絶し、吐き捨てると同時に立ち去ろと一歩、足を踏みだす。
するとそこへすかさず落ち着き払った声が、私を引き止めてくる。
「それはできない」
けれども私は聞こえない振りを貫き、さらに二歩、三歩、と。歩きはじめていた。
「知りたいと思わないのか? 自分がどうしてあの場所にいたのか」
少しだけ張ったその声に、足が止まる。
振り向きはしない。
「どうでもいい」
ただ、答えだけを吐き捨てるだけだ。
ふっ、と。笑う気配がした。
「……どうでもいい、か。けれど君のその体ではもう、スラムへ帰ることはできないと思うが?」
「どういう意味?」
含みをもたせた言葉に、今度は振り返る。
髪よりも濃い色をした瞳が、
「知りたければ私についてこい」
偉そうに命令してくる、その態度が癪に触ってしょうがない。
…………イライラする。
別に知りたくないと言って、振り切ることもできた。
そもそもカエラムと同じ。この男もまったく信用できない。
いくらあの地獄から連れだしてくれた人とはいえ、人体実験に関わっている張本人なのだから。
だけど、一切ぶれない瞳が、脅しではないと言っている。
「…………」
ちっ。内心で舌をうつ。
「ついて行くわけじゃない。私が、話を聞いてあげるんだから」
「それで構わない」
ニクスは何がおかしいのか小さく声を洩らして笑っている。それがまた、余計に腹がたつ。
この二人が兄弟? 確かによく似てるわね。
タイミングを見計らっていたかのよう。後ろの席のドアがひとりでに開いた。
口を大きく開き待っているその場所へ、ニクスが手だけで、お先にどうぞ、と言わんばかりに促してくる。
「──────待て」
そこへぴしゃりと、冷水にも似た温度のない音が放たれた。
カエラムが、兄だと呼んだ人へ詰め寄っていく。
「今日は引いてやる。だけど明日は必ず僕のところへ寄越せ。中和剤は僕しか手に入れられない」
身長差がある分、カエラムはニクスを見上げる格好で、ひどく真剣な面持ちをもって、訳の分からない話をしている。
けれどもニクスは理解した様子だった。
「分かった。ここでいいのか?」
「ここでいい」
兄弟たちだけが分かりあい、いったいなんの話なのかさっぱり分からない私だけが二人を見て眉を顰めるだけ。
再び赤い瞳が、突っ立ている私へ視線を流してきた。
腑に落ちない。
ずっともやもやした気持ちを抱えながら、待ち構えている口のなかへ乗り込む。




