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絡む糸

 石が不規則に嵌め込まれた地面は冷たい。

 狭い路地の頭上を、背の高い建物と建物を繋ぐ石のアーチがいくつも跨いでいる。

 光はない。ただの闇。

 それなのに私の目には、色が。形が、はっきりと映しだされる。

 導かれるまま追いかけてきたその音は、背中を向けていた。

 小柄な体に修道服。

 そして、──────金糸。

 辺りにはぜぇぜぇと、飢えた獣みたいな息づかいは誰のものだろう。私か?

 夜の腹のなかで、金糸が動いた。肩越しにちらっとこちらを振り向いたのだ。

 その足元には仰向けに倒れた男が転がっている。

 あれは、そう。檻から運びだされていた男にとてもよく似ている。

 ああ、もう、やめて!

 理性が覗き込んできたり、掻き消されたり。チカチカしてうるさい!


「あれ、まだいるじゃん」


 空色の瞳が「はぁ」溜め息を溢す。


「報告と違う」


 拗ねたような一人言が鼓膜に響く。

 それがゆっくり振り返った。

 その姿は一瞬たじろぐほど美しい。

 わずかに忘れていた苦しさや衝動が、せき止められていた分だけ一気に襲いかかってくる!

 辺りに女の悲鳴が鳴り響いた。


「騒ぐな。すぐ楽にしてやる」


 空気を切り裂く悲鳴のなか、ひと際冷たい声が紛れたような気がした。

 私の、私のものなのかも分からなくなってきた。

 地面を蹴り、上空に向かって跳ねあがるように飛んだ体が、そこに静かに立っているだけの金糸めがけて突っ込んでいく。

 指先があたる、──────その直前、ふっと見上げてきた空色の瞳が片手で喉元を掴むようにして押さえ込んできた。

 そのまま地面に押し倒され、気づけばひやりと冷たい

 鉄が、額に押し当てられていた。

 馬乗りになっても軽いと感じる小柄な体だ。

 それのどこにそんな力があるというのか。

 いくら暴れてもびくともしない。

 けれど一方で、思ってしまった。

 これで楽になる。

 と、強い怒りのなかから本能が、ぽんぽんと優しく肩を叩いてくる。

 両手でそれを、銃を掴んだ。


「お……ねがい……っ」


 漏れる苦痛の合間になんとか懇願する。

 お願い。お願いだから早くこの地獄を終わらせてほしい。

 はっ、と。息を呑む気配がした。

 押し当てられていた銃口が、わずかに浮く。


「その声……あんたまさか、」


 金糸が弾かれたように顔を覗き込んできた。

 息がかかるほどの距離で。

 そして見開かれる空色の瞳。


「なんで…………」


 意味が分からない。そう言いたげな声と同時に相手の体からふわっと力が抜ける。

 それを払い落とし、地面で尻もちをついている体に噛みつく勢いをもって襲いかかる。

 が、金糸は両腕で私の体を抱きしめた。

 カツン、カツン。地面に当たって転がっていく、私の唯一の救い。

 暖かいと思ってしまった腕は、まるで必死にしがみつくみたいに、胸に顔を埋めてきつく力を込める。

 それを振り払おうと、もがく。もがいて、もがいて、でも全然振りほどけず、叫ぶ。

 金糸は片腕だけで私の体を抱きとめたまま、修道服の内側に手を突っ込んだ。

 すぐにキーンと金属が鳴る音がし、甘い匂いが揺らぎはじめた。

 すると皮膚のすぐ下を這う、得体の知れないものが鳴りを潜めだす。

 真っ赤な怒りが薄くなっていく。

 もがくことをやめた私の顔を見て、金糸が……いや、カエラムだ。


「いい子だから、今度は噛みつかないでよ」


 柔い声音がそう言って、顔を逸らして煙草を深く吸い込む。

 暗闇のなかにただ一つ。赤が灯る。

 そうして戻ってきた空色の瞳が。

 顔を少し傾け、近づいてくる。


「………………」

「………………」


 唇を舌でこじ開け、隙間から流れこんできた、独特な甘さを孕んだ熱。

 それと同時に、私は意識を手放した。















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