第五話 これが錬金術です
キャキャウ、キャキャキャウゥ。
薄気味悪い魔物の声が、反響しながら壊れた壁の隙間から漏れ聞こえる。
ドゥルルル、ダウルンルン。
どうやら一匹や二匹ではないことは明白です。
しかもその中には、かなりの巨体を誇る魔物も混じっているのでしょうか?
吊られた部屋を揺らすような、低く響く唸り声まで聞こえてきます。
普通の人間だったら、恐怖のあまり一目散に逃げ出すところでしょうが……。
こちらへ向かって来るのか……。
ミントも、エルフのおじさんも息を潜めたままでした。
「……どうやら、こちらには来ないな」
あぁ、よかったです。
おじさんもホッとして気を抜いてます。
彼女の足から腕を外されていることにも、気付いていないようですよ。
――と、ミントは何事もなかったかのように、ひょいっと距離を取ってしまいました。
それに気付いたおじさんは、力なく「待て」ともう一度しがみ付こうとしますが……。
その深い傷では、もう彼女を捕まえることは出来ないでしょうね。
床に倒れ込むおじさんを横目に、彼女は先ほど奪い取った羊皮紙の地図を広げています。
あ、彼女は、ガシャガシャと不気味に踊っているように見えますが……。
もちろんこれでも大喜びしているのです。
なぜならその羊皮紙には、「地上までの最短ルート」がバッチリ書いてあるのですから!
「もしかしたら……助けてあげられるかも」
「だから、そっちのポーションも頂戴ね」
『頂戴』なんて可愛い言葉ですが……。
何せ見た目は無骨で凶悪なフルプレートですからね。
瀕死のおじさんからすれば、地獄の死神から脅迫されているレベルの凄まじい威圧感でしょう。
「ど、どうせ力ずく奪っていくのだろう……」
「し、しかし、そのポーションは安物だ。碌に傷を回復することなど出来ないぞ……」
そんな抵抗の言葉とは裏腹に……あらら。
おじさん、もうガタガタ震えながらポーションを差し出してしまっていますよ。
「平気、平気。たぶん平気だよ」
「ま、少し待ってて」
彼女は差し出されたポーションを手に取ると、今来た道をガシャリと引き返し始めました。
「おい……ちゃんと戻ってきてくれ。礼ならいくらでもするからな」
痛みを堪えながら、おじさんは彼女の背中を見送るだけでした。
彼女は、すごい駆け足です。
どうやら、あの子供のところへ戻るようですね。
ほら。
ガシャン、ガシャ。
重厚ながらも驚くほど滑らかなフットワーク。
あっという間に、先ほどのドワーフの子供が倒れている部屋まで戻ってきましたよ。
そして、彼女が一直線に向かった先は……。
キッチンです!?
手際よく炭石に火花を飛ばして着火します。
床に転がっていた鍋を拾い上げ、迷うことなく五徳の上へと乗せました!
そして、先ほどのポーションをそのまま投げ入れ、ゴミにしか見えない謎の紙切れを……。
……ふふ、これは高度な「錬金術」ですね!
そう、そうに違いありません! それ以外にはちょっと説明がつきませんから……。
それだけに留まりません!
彼女はキッチンに散らばるドワーフたちの残し物まで、鍋にブチ込んでいきます。
……って、まさかそれ、食べ物ですか!?
彼女が食べるのでしたら、大いにありえるのかもしれません……。
それからしばらくして、鍋の中でポンッと気の抜けた音を立てて泡が弾けました。
きっと先ほどのポーションの瓶が温まって、蓋が飛んだのか……。
ドロッとしたスープは……もうスープとは呼べない、何かに変わっています。
彼女は、碌に火が通っていなさそうなその「何か」を、おもむろに火から下ろしました。
そして、そのまま意識を失っているドワーフの子供の元へと歩み寄ります……。
え?
それ、まさか……お・か・ゆ、じゃありませんよね……!?
彼女、その得体の知れない物体を……。
ドワーフの子供へと。
体全体にぶっかけました。
第五話 これが錬金術ですq
……あ! 本当です。
「……ん、んん……っ」
しかし驚くべきことに、子供の意識が戻ったようです。
まさに奇跡です!
子供は、べっとりと謎のドロドロが付いた自分の手をじっと眺めます。
そして、ぽつりと言いました。
「あ……僕は、地獄に落ちちゃったんだね……」
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この物語はフィクションです。
実況、憶測、個性を尊重した感想が含まれています。
鍋の中身に関する苦情は、一切受け付けておりません。




