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『フルプレートの中はゲロゲロ、外は魔物の巣。~魔物酔い体質の女騎士、絶対に揺れてはいけない限界ダンジョン脱出劇~』  作者: イニシ原


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6/6

第六話 打楽器かもしれませんね

「僕は、悪魔に連れて行かれます……」




 ガシャ。


 ガシャ、ガシャ。




 薄暗闇に響く不気味な金属音。


 彼女は何も言いません。


 ただ無心で子供の手を引いて歩いています。




 されるがままに手を無理やり引っ張られているドワーフの子供も。


 恐怖で生きた心地がしていないでしょうね。




 そんな時です。




 シュラァァァ。


 シュシュ。




 彼女たちを狙っているのか?


 暗闇の奥から、薄気味悪い魔物の呼吸音でしょうか、漏れ聞こえてきました。


 その瞬間、ピタッと彼女は足を止めます。




 ただ足を止めた、それだけです。


 それだけですが、魔物への対策を考えたのでしょう。


 彼女は背中の大剣を片手で軽々と引き抜きます。




 そして……。


 なんと同行している子供の体が、フワリと浮くほどの凄まじい初速で爆走し始めました!


 そして、先ほどエルフのおっさんを放置してきたあの部屋まで一瞬で戻ってくるやいなや――。




 ドンッ。




 なんと、抱えていたドワーフの子供を、床で倒れているおっさんの元へと躊躇なく投げ飛ばしました!




 ……あ、いえ、誤解しないでくださいね?


 彼女がガサツだからではありません。


 これは完全に「仕方がない」状況だったのです。




 たった今駆け抜けてきた、背後の通路。


 そこには、鞭のような武器を持った魔物が迫っていました。


 シュルルと不気味な音を鳴らしながら、もう目と鼻の先です!




 ひゅん、と鞭が空気を切り裂きます。


 もし彼女のような頑強な全身鎧でなければ……。


 かすっただけでも、肌が一瞬で弾け飛んでいたでしょうね。




 通路と部屋の境で、まるで壁のように立ちふさがる彼女。


 この状況で、一体何を考えているのでしょう?




 大剣を盾のように構え、敵の攻撃を真っ向から受け止めています。


 そう、彼女が守っているのは自分だけではありません。


 背後に転がる、満身創痍の彼らのことも……。




「あと一つか……」




 バシィィィン!




 凄まじい音を立てて、鞭が何度も叩きつけられています。


 ……それでも、その声を聞く限りは落ち着いているようですね。




 先ほどから、肉眼では目にも止まらない速度の鞭で、滅多打ちにされているのですが……。


 ああ、彼女はただの打楽器かな?


 ベシィィンと、ダンサブルな金属音を地下迷宮に響かせていた彼女ですが――。


 でも、突然にその音色が変わりました!




 ――ブチャァ!




 その酷い音が最後でした。


 見るからに爬虫類顔をした魔物の頭が……綺麗に宙を飛んでいます。




「うぐぅぅ」




 シャッと兜の面がスライドして、中から現れた彼女の顔は……。


 驚くほど真っ赤ですね。


 これは完全に酔ってます。




 鉄製ポシェットをまさぐると、中からさらに小さな入れ物を取り出しました。


 そして、その中にある「何か」を……。


 ええ、たぶんさっき彼女が呟いていた、最後の『薬』でしょうね。


 意を決したように、ごくっと一気に飲み込みました。




「はぁ~」


「君らちーここにいれば平気らよ。じゃーねー」




 これで薬が効いているのでしょうね


 フラフラしていますし、完全に呂律も回っていませんけどね。




 彼女はそれだけ言い残すと、ガシャガシャと足早に部屋を出て行ってしまいました。




 後に残されたのは、怯えるドワーフの子供。


 何が起きたのかさっぱりわからない満身創痍のエルフのおっさん。




 今この場で、目の前に起きた奇跡を正しく理解できている者は……。


 おそらく一人もいないでしょうね。




 でも、奇跡的な出会いなんて、案外こんなものなのでしょうね。




 今、去りゆく彼女にとって一番大切なことは……。


 壮絶な戦いよりも何よりも、「魔物酔いに効く薬」なのですから。





 ーーーーーーーーー





 この物語はフィクションです。


 実況、憶測、個人の感想が含まれています。


 全身鎧を打楽器として使用することは法律で禁止されています。


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