26 過激論
「……だったらあの二人をぶっ殺して、剣を奪えばいいじゃない。ちょっとあんた、聞いてる?」
「イテテ、なんだよ?」
桃井に耳を引っ張られ、過去に思いを馳せていた赤松は現実に戻される。赤松は思わず食べかけの卵焼きを取り落とした。なんだか桃井のバカが無茶苦茶なことを言っていた気がする。
「うわぁ、桃井さん……。野蛮にもほどがありますね。だから友達ができないんですよ」
青木は大きく顔をしかめた。桃井は青木の耳も引っ張り、主張する。
「うるさいわね! どうせあの剣、まっとうに手に入れたんじゃないでしょ!」
桃井とのやりとりを反芻し、桃井が何を言ったのか把握してから赤松は言う。
「確かにそうだろうな。普通にやったら、あの二人じゃあのレベルの剣が手に入るわけがない」
オーバーライドでレベルアップした状態でボスキャラなりダンジョンなりを攻略したと考えることもできるが、多分事実は逆だ。雅雄とツボミのオーバーライドは〈ブルー・ヘヴン〉と〈ブラック・プリンス〉がキーアイテムになっている。二人は伝説の剣二本を手に入れて自信を持ち、スペシャルバーストを使えるようになったのである。
「……そう考えると雅雄は卑怯っちゃ卑怯なのかな」
赤松は、自分たちがどうにか基本職に就いて【マキナシティ】に辿り着くまでの道程を振り返る。全員が無職スタートで、序盤のダンジョンで全滅しかけた。そして無理をしないことにして、他の皆が何事もなく通過したダンジョンで何日も粘って経験値とお金を稼ぎ、やっとのことでステップアップして前線に追いついた。にもかかわらずツボミの助力があるとはいえ、雅雄なんぞに太刀打ちできない。
「多分、神林に助けてもらったんだろうな。昔から雅雄は神林のお気に入りだったから」
「ふむ、あの勇者殿に……」
緑沢があごに手をやる。思い出しているのだろう。赤松たちも序盤のダンジョンで全滅しかかったとき、通りがかったメガミのパーティーに助けられている。
「やっぱり雅雄にあの剣はふさわしくねーな」
赤松は吐き捨てた。赤松が逆立ちしても手に入れられない力を、雅雄は保持している。たまらなく腹が立った。
「ツボミの方はいいの?」
桃井は面白くなさそうに訊いてくる。赤松はうなずいた。
「ああ。あの剣は昔ゲームに参加してた兄貴から受け継いだものだって言ってた。べつに悪いことしたわけじゃないだろ」
「それを言ったら雅雄君が悪いことして〈ブルー・ヘヴン〉を手に入れた証拠もありませんが」
「青木殿、無粋でござるよ。赤松殿は、多分……」
青木が何か言ったが、緑沢が遮る。だんだん赤松もその気になってきた。むくむくと大きくなるものは止められない。赤松は意気揚々と宣言する。
「よし、雅雄を倒して俺らで〈ブルー・ヘヴン〉を手に入れるぞ!」
「ツボミも一緒に殺して〈ブラック・プリンス〉ももらいましょうよ」
桃井は言ったが、赤松は決して首を縦には振らない。
「ツボミは雅雄に騙されてるだけの被害者だ。手出しするのは俺が許さない。一緒に雅雄を倒した後、俺たちのパーティーに入ってもらおうぜ!」
パーティー枠は五名だ。あと一人は誰かを誘える。ツボミこそ、最後の一人にふさわしいだろう。彼女ならすぐに上級職に就いて、自力で〈ブラック・プリンス〉を使えるようになる。
「あの二人ベタベタよ? ツボミが雅雄を裏切るわけないじゃない。なんで勝手に一人で盛り上がってるのよ」
まだ桃井は言うが、赤松はニッコリと笑う。
「俺が責任をもって説得するさ。雅雄がどういう人間かわかったら、ツボミも目が覚めるだろ」
「これだから童貞はだめなのよ。そういうのが一番嫌われるっての」
桃井は嘆息する。青木はボソッとつっこむ。
「それを言ったら桃井さんはメンヘラ処女じゃないですか」
「誰がメンヘラよ! このクソバカメガネ!」
手に持っていた菓子パンで殴られ、青木のメガネが吹っ飛ぶ。
「桃井殿、落ち着きなされ」
緑沢は桃井を制止しつつ青木のメガネを拾ってやる。青木はメガネを掛け直しながら、少々愚痴りつつ本題に戻る。
「イテテ、桃井さんは本当に乱暴なんだから……。しかし、ツボミさんを雅雄君から引き剥がさないと我々に勝ち目がないのは事実です。〈ブラック・プリンス〉のスキルはチートすぎる」
キングゴーレムとの戦いではあまり役に立っていなかったが、対プレイヤーだと時間加速スキルは無敵に近い。多分、元々かなり強力な剣だったのをさらにプレイヤー生産職が限界まで強化しているのだと思われる。青木の言うとおり、四人がかりでも勝ち目はないだろう。
「……やはり騎士道に反するようなことは、するべきではないと我が輩は思う。協力は今回の案件が終わっても続けられる。赤松殿が謝れば手打ちとなるだろう」
話を蒸し返す形になるため、緑沢は遠慮がちに言った。勝ち目がないから、赤松が頭を下げて今まで通り協力関係を続ける。まっとうな意見ではあったが、赤松には受け入れられない。桃井も緑沢の提案を一蹴した。
「本当にあんたは甘いわね~。所詮はあいつらも敵なのよ。ゲームクリアできるのは一パーティーだけなんだから」
神になれると明言されているのは、魔王を倒した一パーティーだけだ。他にも採用枠はあるという話だったが、よほど活躍しないとそちらには潜り込めないだろう。チャンスは限られている。
「もう、雅雄とは協力できない。あいつは俺を見殺しにしようとした」
お題目に過ぎないが、赤松はそう言うしかない。赤松の中で、すでに話は行き着くところまで行き着いてしまっているのだ。青木はそれを察してか、赤松の意に沿った方向で話を続ける。
「……まぁ、将来敵になるのなら、今のうちに倒しておくというのも一つの手です。緑沢君も私たちの誰かが死んで、代わりにあの二人が加入するというのは望まないでしょう?」
「うむ、それは我が輩も望まぬ……」
「椅子は一つしか空いてないんです。赤松君が決断するのは今だというなら、間違いではないのかもしれません」
「俺は必ずツボミを説得する。そして、雅雄を倒す」
赤松は宣言する。話は決まった。桃井はふと尋ねる。
「説得できなかったらどうするの? あの二人と戦うの?」
「策はあります。策と呼べるほどのものではありませんが……。とにかく、やり方次第で勝ち目はあります」
青木は断言する。もしものときのことは、青木に任せればいいだろう。赤松はツボミをパーティーに引き入れるのだと固く決意した。




