↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/286

25 仲間とは

「やってしまいましたね、赤松君」


「何のことだよ」


 赤松が通っている中学は私立なので、給食なんてものはない。外出は禁じられているので、食堂に行くか、購買部でパンでも買うか、さもなくば弁当を持ってくるかだ。昼休みに自席でもそもそと弁当を食べていると、赤松は前の席の青木に話し掛けられた。


「例のゲームの件に決まってるじゃないですか。あれはまずかったですよ」


「左様。我が輩もそう思う。雅雄殿とツボミ殿に謝らなければなるまい」


「……」


 隣のクラスから弁当箱を持って緑沢もやってくる。客観的に見れば、赤松は酷いことをしたのかもしれない。雅雄ごときの扱い、赤松からすればあの程度で当然と思うのだが、青木や緑沢にとってはそうではないようだ。


「謝る必要なんてないでしょ。馬鹿らしい」


 購買部で菓子パンを買ってきた桃井がドカッと大股開きで赤松の隣の席に腰を下ろす。こんな風にガサツなのでこいつは同性の友達がおらず、赤松らとつるんでいるのだ。それを女子に軽く馬鹿にされ、よせばいいのに本気で怒ってギャーギャー喚いてさらに敬遠される。……桃井に女子の友達ができる日は遠そうだ。


「しかし、雅雄殿とツボミ殿も我らの仲間。これから末永くやっていくためには、しこりを残すわけにはいくまい」


「向こうはそう思ってないでしょ。こっちを信用してないから武器を貸してくれなかったのよ」


 緑沢は言ったが、桃井はばっさりと切り捨てた。青木も嘆息するが、幾分か冷静ではあった。


「まぁ、そういうことなんでしょうね。ただ、あのレベルの装備を貸せというのが無茶だったのも事実です」


「きっとあいつら、影でアタシたちのこと見下してたのよ! 考えてたらムカムカしてきたわ……!」


 桃井は拳を握ってプルプルと震わせる。自分で言って自分で怒り出す桃井に、青木はまたも嘆息した。


「それはさすがに被害妄想では……?」


「いや、あながちそうとも限らないんじゃないか? あの剣を持ってる限り、雅雄は俺たちには負けないって思ってるよ」


 赤松はつぶやくように言った。皆には言わないが、雅雄は赤松の小学校時代を知っている。見下しているは言い過ぎかもしれないが、きっと下には見られている。


(もう俺はあのときの俺とは違うはずだ……。なのにどうして、あいつを見てると腹が立って仕方がないんだろうな……)


 赤松は皆に囲まれているにもかかわらず、一人で屈辱の時代を思い出す。




 小学校の頃、まだ両親が離婚していなくて、赤松が赤松ではなかった頃。チビで太っていた赤松は当然のようにいじめられていた。


 何をやっても鈍臭かったので、どんな遊びでも仲間はずれ。誘われたかと思ったら、泥棒が一人だけのケイドロで、捕まった後に尋問と称して拷問を受け、ボコボコにされた。大抵誰かが声を掛けてくるときは掃除当番を押しつけられたり、給食のまずい品目をたらふく食わされたり、ろくなことがなかった。


 だから学校に行っても誰とも話さない。昼休みはいつも一人で図書室に隠れて勉強ばかりしていた。幸い、赤松の学力は悪くはなかった。いつかあいつらを見返してやるのだと信じて、一人でずっと勉学に励んだ。


 他人を避けて学校生活を送っていても、否応なしに誰かと関わらなければならないときもある。例えば、体育で二人組を作れと言われたときとか。


 いつも赤松が組んでいたのは、平間雅雄という少年だった。赤松と同じようにチビで、赤松とは正反対のひょろガリで、赤松と同じように鈍臭い少年だった。特別頭がいいとは聞いたことがないし、運動神経は赤松より悪い。これだけなら数少ない赤松が安心して見下せる相手である。


 しかし雅雄は赤松とは全然違っていた。まるで女の子と見間違えんばかりに綺麗な顔をしていたのだ。


 雅雄はいつも女子に囲まれてのほほんとしていた。雅雄にちょっかいをかけているとと神林メガミが飛んでくるし、場合によっては業田静香の身の毛もよだつ恐ろしい報復が待っている。


 赤松と同じようにスクールカースト最底辺のはずなのに、雅雄は一人ではなかった。ずっと女に守られて、へらへらとゲームの話ばかりしていた。赤松にはそんなことは絶対にできない。


 俺とこいつで何が違うんだ。わかりきっているのに、体育で一緒にやる度にそう思わずにいられず、イライラした。かといってあまり辛く当たると静香に何をされるかわからないので、黙々と作業のように課題をこなすしかない。おどおどと雅雄が話し掛けても無視することだけが、赤松の抵抗だった。


 こんな立場から抜け出してやる。それだけを考えて赤松は必死に勉強し、筋トレとランニングに励んで体脂肪を落とした。にぼしと牛乳をひたすら摂取して、腹痛と下痢に苦しみながらも背を伸ばした。




 そして赤松は地獄のような小学校を卒業し、努力の甲斐あって少し離れたところにある私立中学に入学する。中学デビューなどできるわけもなく、こっちでも陽キャラにはなれていない。求められるレベルが高いので、成績不振で退学にならないよう、入学前と変わらず必死で勉強ばかりの日々だ。


 それでも、少ないながらも話す相手はできて陰キャの王様くらいにはなった。神を決めるためのゲームとやらにも参加を許され、苦労しながらも自分の人生は順風満帆なのだと思えた。正直、小学校のときのことなど忘れかけていた。


 しかし赤松は雅雄と再会してしまったのだ。雅雄はまた違う女子に守られて、小学生のときと変わらずヘラヘラしていた。


 雅雄を見ていると、過去の自分を馬鹿にされている気がして、今の自分を馬鹿にされている気がして、無性に腹が立つ。今すぐぶち殺したい衝動に駆られて仕方がない。


 一方でツボミのことを哀れに思った。雅雄がヘタレすぎて目を離せないで保護者役をやっているうちに憐憫の情を恋愛感情と勘違いしてしまったのだろう、ツボミは雅雄と付き合ってるなんて言っている。本当に雅雄は気持ち悪いやつだ。どうすればツボミの目を覚まさせることができるのだろうか。


(俺が俺であるために、俺は……!)


 結論は出ているような気がした。だが、雅雄でも一応は仲間である。赤松が決断したとして、皆がついてきてくれるか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。