20 進撃の赤松
『赤松康平 Lv.40 ソードファイター』。赤松はさっそく【ブレイバーズシティ】の神殿に赴き、上級職に転職した。上級職のステータスアップ率は基本職とは雲泥の差で、赤松はLv.40台のモンスターを一人でも倒せるくらいになった。
次の日、また知恵の洞窟に潜り、Lv.40台のモンスターに囲まれた。ちょっとした広間になっているところで、数の優位がそのまま戦力差になってしまう。昨日も同じパターンで囲まれたので、これが製作者の意図なのだろう。このレベルのモンスターの群れを突破できないなら、最奥部のお宝を手にする資格はない。今まで拾ったアイテムで満足して、引き返すべきだ。
しかし、上級職になって気が大きくなっている赤松は勇んで前に出る。
「よし! 俺に任せろ! ツボミと雅雄は手を出すな!」
赤松の声を聞いて敵の方に飛び出しかけたツボミは動きを止め、雅雄は耳を疑う。まともにやって、本気でこの数に勝てると思っているのか?
「いや、いくらなんでも無謀なのでは!?」
青木が慌てて制止するが、もう遅い。赤松は一体の『クリムゾンゴブリン Lv.40』に斬りかかる。赤松は通常攻撃を数回浴びせた後、とどめだと言わんばかりにモーションスキルを繰り出す。
「喰らえ! 『スラッシュ』!」
派手なエフェクトとともに、クリムゾンゴブリンは消滅した。しかし仲間のゴブリンたちは健在で、非常事態に対して甲高い奇声を上げ、仲間を呼んで対応する。
「いかん! これは危ない!」
緑沢が駆け出す。赤松はモーションスキル使用後の硬直で動けない。フォローが必要だ。緑沢は剣を振り回し、赤松に近づこうとするクリムゾンゴブリンを追い散らす。
「あ~もう、どうすんのよ! 『リトル・フレイム』!」
桃井も炎の魔法を使ってゴブリンを吹き飛ばした。しかしわらわらとクリムゾンゴブリンはいくらでも湧いてくる。
「『リトル・フレイム』! 『リトル・フレイム』! あ~もう、面倒くさい! みんな吹っ飛んじゃえ! 『エクスプロージョン』!」
桃井の杖から虹色のエフェクトが発生し、小さな火球は大爆発の呪文に変化する。吹き飛ばされた数体のクリムゾンゴブリンは即死した。狭いところで使えば味方を巻き込むが、この広さなら大丈夫だ。
青木は回復呪文を飛ばして赤松を回復させる。赤松は笑顔を見せた。
「な? 何とかなってるだろ?」
「どこがですか! 平間君に香我美さん、オーバーライドを……」
青木は雅雄とツボミの力を借りるべく指示を出そうとするが、赤松は血相を変えて大声で遮る。
「使うな!」
そこまで言われれば雅雄とツボミは動けない。赤松は剣を携え、意気揚々と次の敵──『ゴールドゴーレム Lv.43』に向かっていく。
「物理耐性がなんだってんだ! 今の俺なら倒せる!」
薔薇の剣士がそうしたように、ゴールドゴーレムを剣でぶん殴って粉砕するべく赤松は進撃する。緑沢は後ろから続いて、赤松の背中を守った。クリムゾンゴブリンは仲間を呼び続けているが、桃井が『エクスプロージョン』を乱射して、壊滅に追い込みつつある。本当に何とかなるかもしれない。
赤松は動きの鈍いゴールドゴーレムの攻撃をうまく避けつつ、何度も何度も剣でしばき上げる。だめだ。全然HPゲージが減っていく感じがしない。
「これでどうだ! ……あれっ?」
赤松はなおも剣を振るい続けるが、気合の籠もった一撃を放った結果、剣はポッキリと根元から折れてしまった。赤松は間抜けな声を上げる。
ほぼ同時に、桃井もガス欠を起こす。
「『エクスプロージョン』! あらっ、出ない? MPがなくなっちゃった……」
これはもう雅雄たちが行くしかない。雅雄とツボミはオーバーライドを発動して薔薇の剣士となり、モンスターたちを薙ぎ倒した。
『香我美ツボミはレベルアップした! ちから+3 がんじょうさ+1 すばやさ+5 きようさ+1 かしこさ+1……』
戦闘終了後にファンファーレが鳴った。オーバーライドを使っても多少は経験値が入る。今回の戦闘で、ツボミはLv.19となった。
とはいえいくらレベルが上がっても探索の続行は不可能である。桃井はMPを使い切ってしまい、赤松の剣は折れてしまっている。焦りの中で戦ったので雅雄とツボミも精神的な消耗が大きく、オーバーライドも今日は打ち止めだ。これ以上は戦えない。
「う~ん、いけると思ったんだけどな。ツボミたちとレベルは一緒だし、同じ上級職だし。ステータスは同等のはずだろ?」
〈脱出の縄〉で洞窟の入り口に戻った後、少し苦々しい顔をしながら赤松は首を捻った。青木がさすがに怒る。
「装備が違いすぎます! 攻撃力は話にならないくらいあなたの方が低いし、装備品スキルもない!」
しかし赤松は不敵に笑った。
「逆に言うと、装備さえしっかりしてれば俺もあれくらいやれるってことだろ? なぁ、雅雄、俺におまえの剣を貸してくれないか? どうせおまえが持ってても普段は使わないだろ?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。確かに、上級職に就いた赤松なら〈ブルー・ヘヴン〉を使うことができる。でも、〈ブルー・ヘヴン〉は雅雄が持っている唯一の切り札だ。この剣があるから雅雄はここまで来ることができた。〈ブルー・ヘヴン〉は雅雄のアイデンティティそのものである。何があっても貸せるわけがない。
雅雄は絶句するが、さらに赤松は続けた。
「全然レベルも上がらないんだから、おまえが持ってても一人で使うことは永久にないだろうしな。ツボミはもうすぐ基本職には就けるし、このペースだと上級職もすぐだと思うが……」




