19 力こそパワー
知恵の洞窟、第十五階層。ついにLv.40台のモンスターが出るようになった。赤松たちもレベルは上がってきているので、数体なら今まで通り対処できるが、数が多いと厳しくなってくる。
構わず奥へと進み続けた雅雄たちだが、広間になっている一角でモンスターに囲まれてしまった。『どうくつオーク Lv.42』×3、『ゴールドゴーレム Lv.43』×1、『クリムゾンゴブリン Lv.40』×5。さらにクリムゾンゴブリンは甲高い奇声を上げて、いくらでも仲間を呼んでくる。
「クソッ! 俺たちじゃだめだ! ツボミ、雅雄、頼む!」
戦いながら、赤松は半ば悲鳴のように言った。一番レベルが伸びている赤松でもLv.39で、モンスターたちより低い。いよいよ伝家の宝刀を抜くときが来た。ツボミは前線から戻ってきて、雅雄の隣に立つ。
「行こう、雅雄!」
「うん!」
ツボミの呼びかけに雅雄は力強くうなずく。今が、戦うべきときだ。強敵に囲まれているのかもしれないが、負ける気がしない。雅雄とツボミは〈ブルー・ヘヴン〉と〈ブラック・プリンス〉を交差させ、オーバーライドを発動する。
「今、青薔薇の奇跡はこの手の中に!」「そして、黒薔薇の永遠は二人を包む!」
「「奇跡の願いは永遠となり、運命を切り開く! 目覚めよ、薔薇の剣士!」」
青と黒のオーラが放出されて雅雄とツボミは一つとなり、『薔薇の剣士 Lv.40 デューク』が現れる。男にも女にも見える容貌で、どこか神秘的な風体。薔薇の剣士は二本の剣を構える。
薔薇の剣士の神々しい姿を見ても、青木は冷静だった。回復魔法や支援魔法を飛ばしながら、青木は赤松に具申する。
「我々は撤退の準備をした方がいいのでは? レベル的に、勝てるとは限りません。むしろ不利だ」
「……」
レベルだけなら、敵の方が上だ。雅雄とツボミを見捨てて逃げるというのも現実的な選択肢である。赤松は何も言わない。迷っているようだった。
ならばそんな迷いは、この剣で断ち切って見せよう。持ち前のスピードを活かして、薔薇の剣士はモンスターの群れに斬り込んだ。何体数がいようと関係ない。薔薇の剣士にはそれを覆す力がある。
まず通常攻撃で一体のクリムゾンゴブリンを瞬殺。これで勝ったも同然だ。〈ブラック・プリンス〉のスキル使用ゲージがチャージされ、薔薇の剣士は即座に時間加速スキルを発動させた。
世界の全てがスローモーションになる。薔薇の剣士は近くにいる相手から手当たり次第に切り刻んでいく。〈ブルー・ヘヴン〉のスキルも効果を発揮し、攻撃がヒットするたびにステータスがどんどん上昇。〈ブルー・ヘヴン〉と〈ブラック・プリンス〉の攻撃力なら多少のレベル差など問題にならなかった。
多分、赤松たちは薔薇の剣士の姿をまともに視認することさえできなかっただろう。百倍の時間加速の中で、モンスターたちはもともに反撃することができず次々と首を落とされる。
唯一、物理耐性を持つゴールドゴーレムだけが薔薇の剣士の一撃に部位欠損を起こさず耐えたが、反撃などできない。斬れないならば、殴り続ければいいだけだ。スペシャルラッシュを使うまでもない。通常攻撃で押し切る。
二本の剣を振り下ろされ、掘削機で破壊されているかのようにゴールドゴーレムの体が粉々に砕けていく。あっという間にHPはゼロだ。
「凄すぎるわ……。これがオーバーライドの……上級職の力なの?」
「これが本物の騎士……! 我が輩では届かない……!」
桃井と緑沢が感嘆のあまりため息を漏らす。一分もかからずモンスターは掃討され、戦闘は完全に終わった。
雅雄とツボミは分離して一息つく。青木は拍手で二人を迎え、はしゃいだ。凄まじい掌返しである。
「お二人とも、さすがです! 私は信じてました!」
「ボクらを置いて逃げようとしてたくせに……」
ツボミは呆れ顔を浮かべる。擁護するなら、あえて冷たい意見を出すのも参謀役を自認している青木の役割だ。掌を高速回転されて非常に気分が悪いけど。悪役をやるのも青木の役目だとみんなわかってるのだろう、ツボミが憮然としていても、青木を責める者はいなかった。
青木の態度にツボミは気分を害していたが、雅雄の方はというと興奮冷めやらぬまま立ち尽くしていた。いつものようにツボミと一つになれたことが嬉しくてたまらなかった。雅雄はツボミと一緒ならやれる。何も恐れることはない。
「これなら奥にどんどん進めそうね!」
桃井が嬉しそうに言った。しかし赤松は厳かに否定する。
「いや、いったん撤退だ」
直後に、派手なファンファーレが洞窟内に鳴り響く。何事かと全員が赤松の方を見た。
『赤松康平はレベルアップした! ちから+4 がんじょうさ+3 すばやさ+1 きようさ+1 かしこさ+1……』
「これで俺はLv.40だ。上級職に就ける。ツボミや雅雄にも負けないぜ」
何かを成し遂げた男の顔で、赤松はニヤリと笑った。




