表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/286

18 彼らの理由

 休み時間の廊下で雅雄を見かけたけれど、話し掛けることができなかった。なぜなら雅雄が、神林メガミと楽しそうに喋っていたからである。


 雅雄はメガミと仲がいい。前からそうだった。でも、雅雄と理想を共有できるのはツボミだけのはずだ。それなのに、二人の間にツボミは割り込めなかった。


(雅雄の心は、ボクのところにないのかな……?)


 ドアの影に隠れながら、ふとツボミは考える。「雅雄はツボミの思いを本気にしていない」。兄の言葉が思い出された。


 ツボミは首を振る。だったら二人は、オーバーライドを使っても一人になんてなれないはずだ。


(信じてるよ、雅雄……)


 届いているのだろうか。ツボミの思いは。



「そう! だから私は、理不尽のない世界を作りたいのです! チビでメガネだからと馬鹿にされるのは理不尽すぎる! 誰がメガネコロポックルだ! 変なあだ名をつけるのはやめろ! もっと、見た目ではなくその人の本質で判断される世界を作る! それが神になって私がやるべきことです!」


 話の流れで神になったらどんな世界を作りたいのかを訊かれた青木は力説する。まだ浅い階とはいえダンジョンを歩いているので少し静かにしてほしいのだが。


「……メガネはコンタクトにすればいいんじゃないのか?」


 赤松がボソリと突っ込む。赤松はきっとそうやってイメチェンしたのだろう。あれだけ痩せて筋肉質になったのだから、死ぬほどトレーニングも行ったに違いない。


 さらに桃井もツッコミを入れた。


「あんた、その面倒くさい性格じゃ見た目がマシになってもモテないわよ」


「見た目はまともなのに性格ブスで全くモテない桃井さんに言われたくありません」


「誰が性格ブスよ!? 爆発させるわよ!?」


「そ、そういうところが性格ブスなんですよ! すぐにカッとなって暴れるんだから! いかれていると思われても仕方ないですよ!」


「なんですってぇ!?」


 桃井に杖を向けられ、青木はたじろぐ。赤松は苦笑いしながら尋ね、青木から矛先を逸らしてやる。


「じゃあ桃井は、もしこのゲームをクリアして神になれたら何をしたいんだ?」


「決まってるじゃない! アタシを性格ブスだのチビだのキ○ガイだのと罵ったやつらを全員血祭りに上げてやるのよ! あいつら、アタシが泣いても許してくれなかった……! 絶対許さないんだから……! あいつらが泣いても絶対許さないわ……! 産まれてきたことを後悔しちゃうくらい、じわじわとなぶり殺しにしてやるわ……!」


 桃井は少しうつむいてブツブツと言う。神どころか悪魔である。心が闇で包まれている。リアルに怖い。相当のトラウマを抱えているようだ。


 赤松は緑沢に話を振って桃井のターンを強引に終わらせる。


「み、緑沢! おまえはどうなんだ!?」


「我が輩は、我が輩が許される世界を所望する……! 頭がおかしいなどというレッテルを貼られない世界を!」


 騎士なのか侍なのかよくわからない口調や仕草も、好きでやっているのだろう。しかし緑沢はそれを揶揄されるのが一番嫌であるようだった。言われてみれば、気を遣っているのか口の悪い桃井もそこには絶対触れない。


「そういう赤松は神になったら何をするつもりなの?」


 逆に桃井は赤松に訊いた。赤松は少し考えてから答える。


「俺は……努力が報われる世界を作りたいな」


「努力ですか。赤松君らしいですね」


 青木はメガネをクイッと上げる。雅雄の記憶にある灰吹は、赤松とは似ても似つかない。学業の成績がよかったという話も聞いたことがなかった。名門私立中学に入学し、見た目も多少はまともになり、陰キャ集団の中とはいえリーダーも努めている。彼なりに、精一杯努力して今の地位を築き上げたのだろう。


「ああ。特段何もしていないのに才能だったり、顔がよかったりで、俺たちよりずっと上のやつとか、楽してるやつとか、いるだろ? 俺はそういうのが許せないんだ」


 赤松の言葉に熱が籠もる。心臓の鼓動がドキリと跳ね上がる。雅雄のことを言われていると思うのは、自意識過剰だろうか。雅雄はうつむき気味となる。


(僕だって、がんばってはいる……よね)


 そう思おうとするが、雅雄はずっとLv.1の無職である。結果は伴っていないのだ。誰も雅雄ががんばってるなんて認めてはくれまい。


 ふと思い出す。今日も雅雄がミヤビになって夜の公園で遊び倒す写真がポストに入っていた。ミヤビを問い詰めると、雅雄が知らない間に昨夜も遊びに出たということだった。これでは丸っきり精神病患者だ。異常者としか見られない。


(それでも僕は、自分の運命を自分で掴み取れるようになりたい。主人公になりたいんだ……!)


 雅雄は不安を無理矢理飲み下す。精神的に不安定になりすぎて、逆に覚悟が決まってきた。そりゃあ雅雄は赤松のように勉強もダイエットもがんばっていない。だけど、この思いだけが雅雄の武器なのだ。現実には何もない雅雄に、この世界では武器がある。ならば最後まで戦い抜いてやる。


「みんな! 敵だよ!」


 ツボミが緊張感溢れる声で警告する。またレベルの低い雑魚が複数現れ、みんなで立ち向かっていく。雅雄の出番はない。


(強い敵が出てきたら取り返そう、ツボミと一緒に……!)


 固く決意しつつ、いつものように戦う準備だけする。一番奥の階層も近い。必ず普通にやっても勝てない相手が出てくるはずだ。そのときこそ、赤松に雅雄とツボミの力を見せつけてやる。


 結局ツボミに頼っているだけなのではないかという思いがチラリと頭を掠めたが、雅雄は首を振って無理矢理打ち消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ