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21 語られる過去

 雅雄が顔面蒼白になって固まっている隣で、ツボミは話し始める。


「……君たちとはあくまで手を組んでいるだけなんだ。勘違いしないでよね。君らの仲間になったつもりはない。〈ブルー・ヘヴン〉を貸せるわけないだろう? もちろんボクの〈ブラック・プリンス〉も貸せない」


 上級職になれたので雅雄の〈ブルー・ヘヴン〉を貸せという赤松の要求を、ツボミは底冷えする声で毅然と断った。ツボミに言われ、赤松はあっさりと引く。


「そうか。ま、そりゃそうだよな。悪かったな、無理言って」


 赤松は気持ち悪い作り笑いを浮かべ、ポンポンと雅雄の背中を叩く。友情アピールのつもりか。吐き気と悪寒が止まらない。雅雄は振り払いたくなるのを必死に耐えた。さらに赤松はツボミにも言う。


「ツボミ、この土日にでもLv.20になれそうだな! レベル上がったら、さっそく神殿に行こうぜ! 俺たちならいろいろアドバイスできると思う」


「え、ああ、うん……」


 傲慢な要求をした後に一転して親切な申し出を受け、ツボミは戸惑いながらもうなずく。赤松は構わず喋り続ける。


「Lv.40もこの調子なら一ヶ月ってところじゃないか? そうなると一人で〈ブラック・プリンス〉を使えるようになるな!」


「……そうだね」


 ツボミは複雑な表情でうなずいた。



 夜、またしても、気付けば化粧してカツラをかぶり、ワンピースで着飾って電柱の影に隠れていた。


(ミヤビ! また君は……!)


(……)


 雅雄は心の中で声を上げるが、ミヤビは答えない。とにかく誰かに見つからないうちに帰ろう。そう思っていると、公園の方から声が聞こえた。


「……じゃあ君は、雅雄と同じ小学校だったんだ」


「ああ。同じクラスだったこともあるぜ。あいつは覚えてないみたいだけどな」


 また公園でツボミと赤松が話をしていたのだった。雅雄は電柱の影から出ることができず、固まる。


「そうなんだ。君は覚えてたんだね」


「ん、ああ。あいつ、いつも神林や業田の後ろにくっついてて、目立ってたからな」


 ここのところツボミはどこか元気がなかった。ツボミの声がさらに低くなる。


「神林メガミと……?」


「ああ。だから、雅雄があんたと付き合ってるのは意外だったよ。てっきり神林か業田のどっちかにくっついてるもんだと思ってた」


「そんなに仲がよかったの?」


「ま、ご主人様とペットっていう感じではあったけどな。あいつ、友達いないから構ってくれたら誰にでもホイホイついていくんだよ。カルガモと一緒だよ。頭も空っぽだしな。んで、神林と業田がちょっかいかけまくってたからさ。あいつ、顔だけはいいからかわいいって女子に人気があったんだ」


 赤松は肩をすくめながら言う。ツボミはムッと眉にしわを寄せる。


「雅雄はそんないい加減なやつじゃないよ!」


「そうか? 俺には誰でもいいような感じに見えたんだけどな。ま、小学生のときの話だから今は違うのかもしれねーよ。俺にはいつも女の子の影に隠れて震えてた印象しかないよ」


「ボクは、雅雄を信じてるから……!」


 ツボミは言う。その後、多少雑談してから赤松は帰っていく。なぜかツボミは一人公園に残る。そして、未だに帰ることができない雅雄のところに歩いてきた。


「ごめん、待たせちゃったね」


「き、気付いてたの? 気がついたらここに来ちゃってて……」


 雅雄は慌て、ツボミは微笑む。


「家まで送るよ。その格好で一人で帰るのは不安だろう?」


「あ、ありがとう……」


 雅雄は蚊が鳴くような声でお礼を言って、ツボミに家まで送ってもらった。雅雄は帰ってから服を着替えて化粧を落とし、ツボミを逆に送ると申し出たが、「ゆっくり休んだ方がいい」と固辞された。


 玄関先までツボミを送った後、一息ついて赤松とツボミの会話を思い出す。赤松は雅雄を貶めていたが、ツボミは聞き入れなかった。雅雄を信じているとさえ言ってくれた。雅雄は一人つぶやく。


「……正直、見捨てられる寸前なんだと思ってた」


 多分、ツボミは近いうちにLv.40まで上がれる。そのとき、雅雄はいらない子になってしまう。置いて行かれるんじゃないかという心配で、雅雄は胸が潰れそうだったけれど、ツボミの本音が聞けてよかった。


「ウフフフフ、私のおかげね、お兄様。やっぱりお兄様には私が必要でしょう?」


 雅雄の目の前に深紅のドレスで着飾ったミヤビが現れる。そういえば、今朝もポストに女装した雅雄の写真が入っていた。


 雅雄の脳内にしかいない存在が突然実体化するわけがない。わかっている。幻覚だ。惑わされてはいけない。雅雄は首を振った。


「違うよ。君は関係ない。ツボミがいてくれたら、僕は前を向けるんだ」


 昔の雅雄の話を聞いてもツボミは揺るがなかった。雅雄だってそうであるべきだ。


「何とでも言いなさい。私はお兄様に必要なのよ」


 ミヤビが姿を消す。自分でも不思議なくらいに雅雄は落ち着いていた。

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