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14 連携(自分は入っていない)

 ようやく第十二階層まで進んだ。いったい何階層まであるのだろう。今日もツボミは赤松と談笑しながらパーティーの先頭を歩いている。雅雄は誰とも喋らず、うつむいたまま最後尾からついていく。


 ミヤビに言われた言葉が頭の中で何度もリフレインする。「告白もしてないのに彼氏気取り?」。まさに図星だった。


(いや、でも、ツボミは僕のことを、好き……だよね)


 でなければ、毎日ご飯を作ってくれることもなければ、雅雄の絶望的な冒険に付き合ってくれるはずもない。静香と戦ったときに誓ってくれたとおり、ツボミは雅雄の同志だ。色恋なんか超えて、二人は一つになれる。でもそんな理屈を、今ひとつ信じ切れない自分がいた。


 だって、雅雄にそんな価値はないのだ。


 自分が一番わかっている。ツボミが惹かれたとするなら、このワールド・オーバーライド・オンラインの世界で雅雄が発揮した意志力だけれども、雅雄は一人ではオーバーライドを使うことができない。必ず、ツボミの助けが必要だ。そんな男に、何の価値があるというのか。


 そもそも雅雄の意志力なんていうのは、子どもが駄々をこねているのと一緒だ。自分が弱いことを認められない。自分には無理だとわかっているのに、諦められない。冷静に考えて、街道を歩くのさえ難儀しているというのに、どうやって魔王を倒すのだ。しかし、認めてしまえばそれこそ雅雄は力を失う。


「! ボォッとしてんじゃないわよ!」


「えっ……?」


 突然、桃井に手を引かれた。されるがままに雅雄は前によたよたと引っ張られる。直後、炎の塊が雅雄の元いたところを通過した。雅雄は青ざめる。直撃したら死んでいたのではないだろうか。


「敵だね! ボクに任せて!」


 『フレイムラット LV.32』が三匹に、『ダンシングボックス Lv.33』が一匹。真っ赤な巨大ネズミという感じのフレイムラットは交互に炎の魔法を放ってくる。ダンシングボックスは特大サイズの段ボール箱が浮いている感じだ。防御力が高いので簡単には倒せない。どちらも、たった一匹だとしても雅雄なら絶対に戦いを避けようとする相手だった。レベルの差から、雅雄単独で勝つのは厳しい。


 しかしツボミは慌ててその場から逃げ出す雅雄を尻目に、反転して猛然と敵に向かって突っ込んだ。彼女はLv.1の雅雄とは違う。知恵の洞窟内で繰り返された戦闘によって、ツボミのレベルは15まで上がっていた。装備を充分に強化しているので、Lv.30を超える相手とも真正面から殴り合える。


 突っ込んでいったツボミは剣なんて持っていない。まず、充分に接近したところで短筒を撃ち込む。ダメージ量は一匹のHPをわずかに削る程度だが、轟音と広がる黒煙でフレイムラットは慌てふためいた。


「俺たちも行くぞ!」


「うむ! 我が輩の剣の力、見せてくれよう!」


「私もいるんだから、忘れないでよね! 『リトル・フレイム』!」


「香我美さん、前に出過ぎです! 『リトル・ヒール』!」


 赤松と緑沢が前線に躍り込み、桃井が攻撃魔法で支援する。真っ先に飛び込んで暴れたツボミはHPゲージが黄色になる前に、青木が回復魔法でフォロー。いつもの勝ちパターンだ。雅雄がやることが何もない。一応剣を構えて青木の隣で控えているだけである。パズルを解いていれば少しは気が紛れるのに。


 すぐにフレイムラットは蹴散らされ、堅いダンシングボックスも追い詰められていく。いくら堅くても反撃を許さずツボミ、赤松、緑沢が順番にモーションスキルで殴り続ければ、いつかは倒せる。


「もう、耐えられないでしょ! 『チャージスラスト』!」


 ツボミがとどめの一撃を放つ。一瞬、ためを作った後、飛び込むように突きを繰り出す新技だ。ための時間で威力が変わる。


 ツボミも雅雄も、この洞窟でいくつかスキルカードをもらってモーションスキルを増やしていた。初級~中級の共通技ばかりだが、無職の雅雄たちにはありがたい。ツボミはともかく、雅雄には披露する機会が全くないけれども。


 ダンシングボックスはバラバラになって弾け飛び、中から出てきた小さな宝箱を赤松はキャッチする。このモンスターはときどき宝箱をドロップするのだ。赤松はその場で宝箱を開ける。


「ツボミ、やるよ。こいつから出てくるポーションの味は別格だぜ? メロン味は俺がもらおう」


 なんてことはない、ポーションが二つ入っていただけだ。いつの間に赤松はツボミを名前で呼ぶようになったのだろう。


「〈ミドルポーション イチゴ味〉……? ん、ありがとう。イチゴ味なんてあったんだ!」


 特に気にする様子もなく、ツボミは赤松からポーションを受け取る。細かいことを言うと、合体ゴーレム以外の入手アイテムは全て雅雄がもらわなければいけないのだが、とても主張できない。


 赤松がちらりと雅雄の方に視線を向けて、ニヤリと口角をつり上げた。何が言いたいんだ、何が。


「ポーションって普通はあんまりおいしくないのに、いい味だね! う~ん、一汗かいた後の一杯は最高だ!」


 ツボミは何も気にすることなくポーションを飲み干し、笑顔を見せる。赤松は満足そうに笑う。


「そうだろ? やっぱ一仕事終えた後のポーションは最高だな!」


 何もしていない雅雄は何も言うことができない。完全に当てつけだった。なぜこいつだけはこんなに突っかかってくるのだ? 他の面子は一応パズル担当の地位を確固たるものにしている雅雄に気を遣ってくれるのに。雅雄は黙ってうつむくしかない。

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