12 置いてけぼり
『香我美ツボミはレベルアップした! ちから+3 がんじょうさ+1 すばやさ+5 きようさ+1 かしこさ+0……』
また、洞窟の中でファンファーレが響く。ツボミはこれでLv.12まで上がった。赤松たちとの連携にも磨きが掛かり、すっかりメンバーの斬り込み役に定着している。
双頭竜の塔でレベルドレインを受ける前のレベルを上回ったが、ツボミのレベルアップのペースは変わっていない。以前のようにとんでもない経験値が表示されることはない。
レベルドレインを受けたことによりレベルアップに必要な経験値もリセットされたのだろうか。雅雄もレベルドレインされた方がよかったのかもしれない。Lv.1でこれ以上下がりようがない雅雄には効果がなさそうだけれども。
「今のタイミングはバッチリだったな」
「そう? ボクはもっと早く行った方がよかったと思うけど」
「そうなのか? じゃあ次はもうちょっとだけ早く仕掛けてみるわ」
赤松とツボミは戦術を話し合いながら先頭を行く。一方、雅雄はとぼとぼと最後尾を歩く。
もちろん、雅雄のレベルは全く上がっていなかった。レベルアップまで経験値七万だったので一朝一夕に上がるわけがないし、そもそも戦闘に参加していないので経験値も手に入らない。宝箱は任されているので、それなりにアイテムは手に入っているが、それだけだ。今はまだ第九階層。そこまでのレアアイテムは出現していない。
(このままじゃだめだ……。どんどん置いていかれちゃう)
これで雅雄に焦るなという方がおかしいだろう。どうにか自分も役に立たなくては。いつまでもパズル担当に甘んじているわけにはいかない。
そう思って雅雄はダンジョンから引き上げた後に、提案した。
「ねえ、もう少しだけ時間があるから、【ブレイバーズシティ】に戻って装備を強化しない?」
雅雄の提案にまず赤松が反応する。
「あの町で装備の強化なんてできるのか?」
「ボクらはプレイヤーのブラックスミスと知り合いなんだ。ボクらがここまでやれるのも彼のおかげさ。この時間なら店にいると思うよ」
「ほ~ん、それは面白そうだな」
ツボミに説明されて、赤松は興味を惹かれたようだった。雅雄はさらに推してみる。
「今日、アイテムは結構手に入ってるんだ。長船君なら、きっといい装備を作ってくれるはずだよ」
「長船……? そいつがブラックスミスなのか?」
長船君の名前を聞いて、なぜか赤松は眉間にしわを寄せる。妙な反応だ。何かを思い出そうとしている雰囲気である。ひょっとして知り合いなのだろうか。
「う、うん……。そうだけど?」
雅雄がうなずくと、赤松は一転、否定的となった。
「やっぱりやめだ。生産職なんて町に引き籠もってるだけで、ろくに戦闘もしてないんだろ? 俺たちの戦いを理解できるわけがねえよ。自分の命を預ける武器は絶対に任せられねーわ」
「……平間君、今日手に入れたアイテムは消耗品ばかりで売ってもお金にはならないでしょう? 今日のところは必要ないのでは? それよりは持ち時間を土日に持ち越した方が有益だと考えます」
「え、あ、うん……。そうだね……」
メガネを拭きながら青木が指摘し、雅雄はうなだれる。完全にお開きな雰囲気だった。
○
「雅雄、そんなに焦ることはないよ。パズルだって雅雄じゃなきゃ解けないのばっかだし……」
ログアウトしてから雅雄のぼやきを聞かされたツボミは苦笑してそう慰めてくれた。食卓に並んでいる料理も、いつも通りツボミが作ってくれたものだ。本日は中華風で、麻婆豆腐をメインディッシュに卵スープや春巻きを付け合わせている。雅雄の子ども舌に合わせて甘辛く仕上げてくれた麻婆豆腐は絶品だった。
ツボミの言うとおり、パズル攻略が実質雅雄一人の仕事と化しているのは事実である。青木も頭はいいのだろうけど、ああいうのは慣れだ。今のところは無駄にゲームの中で各種ミニゲームに慣れた雅雄の方が中心になっている。
「でも、僕ももっと戦いたいんだよ。今のままじゃ丸っきり足手まといだ……」
「そんなことはないよ。君とボクが一緒なら、誰にも負けない。その機会が来たら見せつけてやればいいのさ。そうだろう?」
ツボミはさらりと言ってのけた。ツボミがそう言ってくれるなら、本当にできそうな気がする。現に雅雄はツボミと一緒に戦って、赤松たちよりずっと強い静香にだって勝ったのだ。
「うん、そうだよね……!」
少し元気を取り戻した雅雄は、ご飯をガツガツと食べてツボミを喜ばせた。
ツボミが帰ってからしばらくして、雅雄は気付いた。ツボミは財布を忘れて帰っている。今すぐ出れば追いつけるだろう。雅雄はかわいらしいツボミの財布を引っ掴み、外に飛び出る。そして早足で、ツボミの帰宅コースを追跡した。
雅雄はすぐにツボミに追いつく。途中の公園の街灯の下に、ツボミは立っていた。しかし雅雄は茫然と立ち尽くす。
ここのところ毎日会っているので見間違えようもない。どうして、この男がこんなところにいるのだ。
「いったいどういうことなの……?」
街灯が照らす下で、ツボミは赤松と親しげに喋っていた。




