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9 トレイン

 ネトゲにはトレインと呼ばれる迷惑行為がある。その名の通りモンスターに追われて列車状態になることで、巻き込んだ人様をモンスターPKしかねない。


「桃井さん! もっと速く走ってください!」


「メイジのアタシに肉体労働を求めんなっつーの!」


「クッ……! わ、我が輩ももう限界かも……」


「がんばれ緑沢! こんなところで死ぬわけにはいかない!」


 まさに目の前のプレイヤーたちはトレインの真っ最中だった。まさか雅雄たち以外にもこんなダンジョンに潜っているプレイヤーがいるとは。やがて彼らは雅雄とツボミの存在に気付く。


「よっしゃ! 悪いけど引き受けてもらうぜ!」


 戦士系だろうか、先頭の大柄な男は叫び、方向転換して猛然と雅雄たちの方に駆けてくる。雅雄たちは反応できず、茫然と立ち尽くす。


 四人で構成されたプレイヤー集団は立ち尽くしたままの雅雄たちの前を走り去っていった。モンスターたちは当然の理屈として、より近くにいる雅雄とツボミにターゲットを変える。


 呆けていると死ぬ。雅雄とツボミは我に返り、お互いの目を見てうなずきあった。ここは切り札を切るしかない。


「おい、行き止まりじゃないか! ふざけんな!」


「いや、彼らが死んでる間に〈脱出の縄〉を使えばいいんです! ……って盾にもならないレベルじゃないですか!」


 〈脱出の縄〉は【マキナシティ】で購入できる洞窟脱出アイテムだが、使用には五分ほどの時間が掛かる。逃げながら、戦いながらはとても使えない。


「クッ、我が輩たちの冒険がここで終わりとは……!」


「アタシたちが逃げるまでちゃんと足止めしなさいよ!」


 背後で雅雄とツボミにモンスターを押しつけたパーティーが何やら勝手なことを喚いていたが、完全無視だ。後ろから刺してこないなら気にする必要はない。雅雄とツボミは精神を集中する。


 手慣れた動きでステータスウインドゥから装備品の欄を展開し、それぞれの剣を召喚。雅雄の前に奇跡を司る青薔薇の剣〈ブルー・ヘヴン〉が、ツボミの前に永遠を司る黒薔薇の剣〈ブラック・プリンス〉が出現した。二人は、上級職でしか使えない二本の美しい剣を交差させる。


 今この瞬間、世界は二人だけのものになった。だから、二人は一つになれる。




「今、青薔薇の奇跡はこの手の中に!」「そして、黒薔薇の永遠は二人を包む!」



「「奇跡の願いは永遠となり、運命を切り開く! 目覚めよ、薔薇の剣士!」」




 雅雄とツボミを中心に青と黒のエフェクトが竜巻状に発生する。エフェクトはやがて一点に収束して消滅し、中から一人の剣士が現れた。『薔薇の剣士 Lv.40 デューク』。雅雄とツボミがオーバーライドで融合した最強の姿。長い髪とマントをたなびかせながら、黒装束に身を包んだ薔薇の剣士はモンスターの群れに突進する。


 『レッドゴブリン Lv.32』が三体。『シルバーゴーレム Lv.33』が二体。『どうくつオーク Lv.36』が二体。数が多すぎて雅雄とツボミが普通にやれば絶対に勝てない相手だ。だが、この姿なら違う。


 〈ブラック・プリンス〉の時間加速スキルを使用するまでもなかった。薔薇の剣士は真正面から斬り込み、自分よりややレベルが低い程度のモンスターを通常攻撃の一撃で葬っていく。一発当てれば殺せるくらいに〈ブルー・ヘヴン〉と〈ブラック・プリンス〉の攻撃力が破格なのだ。


 薔薇の剣士は二本の剣による連撃を嵐のように見舞い、一瞬で敵を全滅させる。七体のモンスターを片付けるのに一分も掛からなかった。




 それ以上敵がポップしてこないのを確認して、薔薇の剣士は雅雄とツボミに分離した。あまり長くオーバーライドを使っていると精神的消耗で何もできなくなる。ここでストップしたので、今日はもう一回くらいなら薔薇の剣士になれるだろう。


 若干緊張しながら、雅雄とツボミはモンスターを押しつけてきたパーティーの方を見た。緊急時とはいえ、雅雄とツボミにモンスターを押しつけてきた輩である。オーバーライドを使用して消耗した雅雄たちを襲ってもおかしくはない。そのときは、もう一度薔薇の剣士になって降りかかる火の粉を払わなければならない。


 先頭の大柄な男はずんずんと雅雄たちに近づいてくる。やる気なのか? 雅雄は身構えるが、男は雅雄に目もくれずツボミの手を握った。


「おまえ、すげえんだな! ありがとう! 助かったよ!」


「ちょ、わかった! わかったから! 気安く触らないでよ!」


 ツボミは慌てて男の手を振り払う。男は特に気にした様子もない。男の仲間たちもそれぞれ礼を言ってくる。


「ありがとうございます。本当に助かりました」


「かたじけない」


「フン! 今回は礼を言ってやるわ!」


 彼らの正面に立っていたツボミは目を白黒させ、雅雄は重圧を感じて隅に追いやられる。いったい何なんだ、この人たち……。先頭の大男はさらにツボミに向かってまくしたてる。


「なあ、君! 俺たちの仲間にならないか!? あと一枠パーティーの枠が余ってるんだ!」


「赤松君、そこの彼を無視しちゃいけませんよ」


 モンクと思しきチビ男が、人差し指でメガネをクイッと持ち上げながら言った。

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