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8 地道な攻略

 このダンジョンの存在自体が罠なのではないかと思い始めたのは、アタックを始めてから数日経ってのことだった。雅雄とツボミはようやく第五階層まで到達した。未だにろくなアイテムは手に入らない。第五階層でようやく町で売っているような装備が宝箱に入っているという程度だ。一方で、パズルだけは無駄に複雑化している。


「……」


「……」


 もはや扉の前に到達しても、雅雄とツボミの間に会話はない。ツボミは周囲を警戒し、雅雄はパズルに相対する。今回は十数個の金ピカのピースを組み上げる立体パズルだった。……千○パズルかよ。完成させるともう一人の自分が目覚めたりするのだろうか。


 仕方なく雅雄は台座の上でパズルのピースを手に取り、ああでもないこうでもないと試行錯誤を続ける。このパズルを完成させて台座にセットすれば扉は開く。時折ツボミが声を掛けてくる。


「……まだ?」


「ごめん、まだまだだよ」


「……まだ? ゴブリンがこっちに近づいてきてる……!」


「もうちょっと!」


 自然と汗が噴き出し、指が震える。装備の隠蔽スキルで、ある程度は大丈夫なはずだが、心臓の動悸が速まるのを抑えられない。こんな状態でパズルを解けるはずがなかった。そうこうしているうちにツボミが鋭い声を発する。


「だめだ! 見つかった!」


 こうなると仕方がない。パズルを放り出して雅雄とツボミは『レッドゴブリン Lv.30』二匹と戦う。今回もオーバーライドを使うまでもない。雅雄とツボミは通常攻撃で一体を倒した後、もう一体に初級モーションスキルを交互に発動して畳みかけるというやり方で勝利した。そして雅雄はすぐにパズルの台座に戻り、肩を落とす。


「やっぱり間に合わないかぁ……」


 そう、パズルから離れて一定以上の時間が経つと、最初からやり直しになるのだ。しかもそのとき、パズルの形状も変化している。いったん町に引き上げて再アタックする度にリセットなので、いちいち時間が掛かって仕方がない。


 こんな調子なので、ダンジョンの攻略は遅々として進まなかった。弱いモンスターしか出ず、アイテムをそれなりに入手できるにもかかわらず、他のパーティーがこの洞窟に寄りつかないわけである。一日にログインできる時間が制限されているため、早解き競争でもあるワールド・オーバーライド・オンラインで、こんなところで時間を消費するのは悪手以外の何者でもない。


 ツボミはショックのあまり天を仰ぐ雅雄を慰める。


「この階層ならまともなアイテムが落ちてるんだから、きっとこの先には大型のアイテムもあるよ。だから、もうちょっとがんばろう!」


 鬱々としていたのが戦闘の興奮で打ち消されたのだろう、ツボミは笑顔さえ浮かべて言う。表情をこわばらせたまま、雅雄も同意した。


「そ、そうだね……。どうせ乗り物を見つけないと先には行けないんだし……」


 ふいに「コンコルド錯誤」という単語が頭に浮かんだ。意地になって、引くに引けなくなっていないか。


 いや、このダンジョンにチャレンジし続けるのは雅雄とツボミにとっては最善手のはずだ。パズルが変化するといってもパターンは限られているので時間さえ掛ければ必ず解ける。普通のダンジョンでは敵が強すぎてもっと進まない。プレイヤーが大勢いるところならPKに遭遇するリスクだってある。


 ここで装備を強化するとともに乗り物をゲットして明日への希望を切り開くのだ。雅雄は萎えそうになる気持ちを奮い立たせ、今一度パズルと向かい合った。




 第六階層では、落ちている宝箱にさえルービックキューブ型のパズルがくっついていた。解かないと、宝箱さえ開けられない。もう滅茶苦茶である。


「……宝箱はスルーしようか」


「そうだね」


 雅雄の言葉に、ツボミは静かにうなずく。今日の持ち時間はあと三時間ほど。せっかくいいペースで来ているのだから、もっと下の階層に降りることを優先すべきだ。


 しかしパズルが難しくなるのと同様に、出てくるモンスターも強くなっていた。Lv.30半ばくらいのモンスターがうろうろしている。雅雄とツボミのレベルでは、敵が一体でも苦しくなってきた。モンスターが複数体出てくれば、オーバーライドを使うしかないだろう。


 雅雄とツボミは隠蔽スキルを活用し、慎重に歩を進める。作戦は「命を大事に」に切り替えだ。パズルにばかり気を取られていると死ぬ。要所要所の扉もパズルで封鎖されているので、奥へと向かうことさえ難しくなっていた。


 結局、第六階層を抜けるのに二時間半も掛かってしまった。しかし戦闘はほぼ避けられたのでよしとしよう。続く第七階層はシンプルなジグソーパズルだが、やたらとピースの数が多い。一つのパズルにつき三十くらいはピースがあるのではないか。


 今日はここまでだ。雅雄は決断する。


「いくつかアイテムを回収したら、帰ろうか」


「そうだね。ペナルティを受けるのも面白くないし」


 ツボミも同意して、即座に話は纏まる。雅雄はLv.2に上がるまであと経験値が五万は必要だ。多少経験値を減らされても痛くもかゆくもないが、せっかく稼いだお金を減らされるのは面白くない。


 雅雄とツボミは落ち着いてパズルに取り組めそうな位置にある宝箱を捜す。やがて二人はちょっと奥まったところにある通路で、宝箱を見つけた。少し進めば行き止まりになっている。


 雅雄とツボミにはここがベストだろう。モンスターが出てくれば行き止まりまで逃げて、壁を背にオーバーライドして戦えばいい。囲まれることがないので、まず間違いなく勝てる。


 そうしてツボミが見張りに立ち、雅雄はパズルに取り組む。もうちょっとで解けそうだというところで、ツボミが緊張の声を上げた。


「雅雄! モンスターと……プレイヤーだ!」


 雅雄はバッと顔を上げる。通路の向こうからモンスターたちに追われるプレイヤーの一団がこちらに走ってきていた。

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