7 知恵の洞窟
【マキナシティ】は一言で言えば、スチームパンクな町だった。歯車剥き出しのロボットやら車やらが、蒸気を噴き出しながらゆっくりと町を行き交っている。魔力で動いているという設定で、あまり速く動こうとすると歯車がとれて故障してしまう。町は工場が吐き出す黒い煙に覆われていた。
「こんな町があるんだね……」
雅雄は目を輝かせて周囲を見回す。ここまで来るのにも結構時間が掛かった。昨日は到着と同時にセーブしてゲームを終えたため、本格的に町を歩くのは今日が初めてだ。遠目に見ればうっすらと工場の黒煙が見える程度で、【ブレイバーズシティ】と同様の城壁都市なのだが、中身は産業革命直後のイギリスにSFのスパイスを振りかけた感じだった。シャーロック・ホームズや切り裂きジャックが出てきそうな雰囲気である。
「ほんと、この世界って何でもありだね……」
ツボミも感嘆の声を上げる。が、二人していつまでも感動しているわけにはいかない。目的は街道での移動に使える乗り物だ。雅雄とツボミは乗り物を求め、ボイラーから蒸気が噴き出す音や歯車が軋む音を聞きながら町を散策する。バイクやら車やらも売っていたが、あまりに高い上にMP0の雅雄やツボミには扱えない。
しかし散策の最中、二人は興味深いものを見つける。武器屋で見つけたそれを、雅雄はまじまじと眺める。
「へぇ……。銃なんてあるんだ」
棚には火縄銃の類が陳列されていた。弓を扱うプレイヤーがいるのは知っていたが、銃を見るのは初めてだ。補助武装としてだろう、短筒もいくつかある。雅雄はポップしたウインドゥに表示された説明文を読んでみる。火打ち石が仕込まれたフリントロック式で、一回一回弾薬の装填が必要。当てれば物理で一定のダメージを与えられる。射撃の音で低レベルのスタン効果あり。
「これ、よさそうだね。買ってみようかな」
興味を惹かれたらしく、ツボミもショーウインドゥに並べられた短筒を覗き込む。確かに使いこなせれば大きな戦力になりそうだ。
「いいんじゃない。僕も買うよ」
とりあえず二人は短筒を買った。弾薬が別売りで結構高かったのが詐欺臭かったけれど、その分戦力になるだろう、多分。
さて、本題の移動手段だが、購入するのは諦めざるをえなかった。売りに出ていたただの「馬」なら雅雄たちでも乗れそうだが、やはりバカ高い。だが情報収集の結果、レアアイテムがたくさん眠っているダンジョンが近くにあるということが判明した。【マキナシティ】のご近所にあるからには、魔導機械類も眠っていると考えるのが自然だ。移動用の乗り物も手に入るかもしれない。
その日はポーションその他必須アイテムを買い込み、さっそく次の日、雅雄とツボミは「知恵の洞窟」なるそのダンジョンに行ってみることにした。
【マキナシティ】近郊の山にある知恵の洞窟には、何の苦労もなくすぐに到着した。隠れるとことが多いので、モンスターとの遭遇を避けやすかったのである。戦闘も数回はあったが、敵は街道と同じLv.30前後だ。ポーションを大量消費しつつも危なげなく勝つことができた。
山の中腹でとうとう雅雄たちは知恵の洞窟に足を踏み入れる。レンガで綺麗に固められ、どういう理屈か照明が付いているかのように明るい洞窟の中を、雅雄たちはずんずんと進む。
「……全然人がいないね」
ふとツボミがつぶやく。言われてみればそうだ。レアアイテムが眠っている洞窟なんて、普通に考えればプレイヤーが殺到していそうなものなのに、人っ子一人見当たらない。雅雄も首を傾げる。
「モンスターも全然出ないね」
ますます人がいないのがおかしい。こんなおいしいスポットを、プレイヤーたちが見逃すはずがない。すぐに雅雄とツボミはその理由に突き当たった。
「……何これ」
「パズルだね」
雅雄は胡乱な目で扉を見て、ツボミは嘆息する。扉は無骨な南京錠で封鎖されており、南京錠の本体部分はスライド式のパズルになっていた。パズルを解かないと次への扉を開けないということらしい。
「面倒くさいなあ」
雅雄はげんなりした声をあげつつ、パズルに手を掛ける。まだ第一階層だ。きっと、簡単なパズルに違いない。
「えっと、これをこうして……」
「いや、多分こっちのピースを左だよ」
「それだとこっちで詰まっちゃうんじゃ」
「じゃあ下……かな?」
雅雄とツボミは二人して首をひねりながらパズルを解こうと試みる。苦戦はしたものの、八ピースしかないパズルである。十分程度で二人はパズルを解き終わり、第二階層への扉は開いた。
第二階層では『ブロンズゴーレム Lv.23』やら『はぐるまバット Lv.21』やらが出現し、戦闘となった。街道の敵と比べても明らかに弱い。装備を充分に強化した今の雅雄とツボミなら、普通に戦っても楽勝だ。
しかし相変わらずダンジョン内はパズルだらけで、足止めをされることが非常に多い。パズルを解いている最中に襲われることもしばしばあって、うっとうしさは二倍だ。そして第二階層ではお目当てのレアアイテムは全く見当たらない。もっと下の階層を目指さなければならないのだろう。
「もっと進まなきゃ……! アイテムのために!」
雅雄は自分を鼓舞し、洞窟の奥を目指し続ける。きっと雅雄たちが使える乗り物も眠っているはずだ。




