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6 最終決戦

 その後もつつがなく競技は進行し、最後の学年別クラス対抗リレーを迎えた。ここまで総合ポイントでは雅雄のクラスが一位、ツボミのクラスが二位で、その差はわずかだ。リレーの結果で優勝は決まるだろう。男女のリレーで連勝すればツボミのクラスが勝ち、どちらかだけでも落とせば雅雄のクラスの優勝だ。


 まず男子のリレーが行われ、ツボミのクラスが勝った。女子のリレーで二年生の優勝は決まる。緊張の面持ちで、各クラスのランナーが位置についた。


 張り詰めた空気が伝染したのか、自然と全生徒が静まりかえる。淡いそよ風で木の葉が触れあう音だけが響いた。すぐに先生がスターターピストルを空に向けて撃ち、乾いた破裂音が静寂を引き裂くとともに運命の女子リレーはスタートする。


 スタートラインを飛び出した第一走者が加速していくとともに、応援の声も盛り上がっていく。学年関係なく、高等部までランナーに声援を送っていた。


 最初は団子になって走っていたランナーたちだが、徐々にツボミのクラスのランナーが抜け出してくる。どうやらアンカーにツボミを置く代わりに、一番速い女子を第一走者にしたらしい。それなりに他のランナーに差をつけて、ツボミのクラスの第一走者はバトンをつないだ。


 そこからはほとんど順位が変わることなく、リレーは進行する。そしていよいよ、アンカーのツボミとメガミが位置に着いた。



 ツボミはトラックに出て、自分のクラスの走者が走ってくるのを見る。しっかりと最初のリードを保っていた。ツボミがこのリードを守り切れば、優勝だ。さぁ、かっこいいところを雅雄に見せなくては。


「……負けないから」


 ツボミの隣で、神林メガミがぼそりと言う。一瞬、メガミが鬼ような形相を浮かべたような気がしたのだが、気のせいだろうか。


 彼女も優勝に向けて気合が入っているのだろう。残念ながら実力ではメガミの方が上だと認めざるをえない。気持ちで負けては終わりだ。ツボミは努めて自信満々な笑みを浮かべる。


「そう? ボクがもう勝ってると思うけど?」


「……ッ!」


 メガミは言葉に詰まる。気付けばメガミのクラスのランナーは、かなりメガミのクラスに差をつけていた。


「ボクも気合を入れないとね……!」


 その場でツボミは靴と靴下を脱ぎ捨てた。隣でメガミが何をやっているのだこいつは、と言わんばかりにギョッとする。確かに、こんなことをするのは小学生男子くらいまでかもしれない。


 裸足にひんやりとした土の感触を感じた。閉じ込められていたものが解放されて、気持ちいい。これならやれるという気がした。


 そうこうしているうちに前のランナーが来る。ツボミはバトンを受け取り、一気に自分の中でギアを上げた。足の指でしっかりと土を掴んで蹴る。いい感じだ。いつもより速く走れている。


 後ろから猛然とメガミが追い上げてくるのを気配で感じた。ワールド・オーバーライド・オンラインの中で強力なモンスターと対峙したときくらいのプレッシャーだ。絶対に振り返らない。振り返ったら減速してしまう。0.1秒でも速く走る。それだけでいい。


 そしてツボミは最後のコーナーに差し掛かった。中等部の二年生のブルーシートが固まっているエリアだ。


「王子、がんばれ~!」


「かっこいいよ~! 王子~!」


「あと少し、あと少しだよ~!」


 自分のクラスの前を通ると、いっそう大きな声援が送られた。いつもなら手を振って応えるところだけれども、今日は無理だ。走ることだけに集中する。感覚が研ぎ澄まされて、呼吸の苦しさとか、悲鳴を上げている足の痛みとかまで強く感じて、体が重い。しかし、それさえも心地よい。


 さらにツボミは雅雄のクラスの前を通過した。


「ツボミ、がんばって……!」


 小さな声だけれど、確かに聞こえた。雅雄がツボミを応援してくれている。違うクラスで、勇気の要る行為だったろうに。走っているうちに険しくなっていたツボミの表情が緩む。羽が生えたように体が軽くなり、ツボミはラストスパートに向けて加速する。


 気付けば、真後ろからのプレッシャーは消えていた。勢いそのままに、ツボミは一番にゴールテープを切った。



「おめでとう、ツボミ。リレー、凄かったよ」


 雅雄の言葉に、ツボミははにかむ。


「ありがとう。雅雄の応援のおかげだよ」


 体操服のまま、雅雄とツボミは夕焼けの帰り道を歩く。長距離走は最悪だったが、ツボミがいたことで多少は救いのある体育祭だった。最後のツボミの激走には柄にもなく雅雄も熱くなった。……ツボミを応援していたことに、クラスのみんなが気付いていなければいいなぁ。


 途中までメガミがかなり追い上げていて、ペース的にはツボミを抜きそうだった。しかしメガミはクラスのブルーシートの前で突然失速し、ツボミが逃げ切った。多分、いろんな競技に出すぎて体力が尽きてしまったのだろう。


「明日からはまた、ゲームの方もがんばろうね」


 ツボミは晴れやかな笑顔を浮かべる。精神的な疲労でも、戦いには影響する。今日はログインしない方がいいだろう。


「そうだね。【マキナシティ】、楽しみだなあ」


 そちらの世界でツボミと一緒なら、雅雄は戦える。雅雄はまだ到達していない新たな拠点に思いを馳せ、胸を高鳴らせた。

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