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41 祭りの後

 冷司は、まだノロノロとツボミ相手に追いかけっこをしている雅雄をちらりと見てから、決断する。


「……撤退しましょう」


「それしかないわね……!」


 火綱もうなずいた。マジかよ。冷司たちは雅雄を見捨てて逃げるらしい。ゾンビ双頭竜は相変わらずレベル順にターゲッティングをしているようなので、どのみち彼らに雅雄を助ける余裕などないが。


「そうと決まればスタコラサッサでござる!」


 ユメ子はこれでもかと煙幕をばらまく。


「逃がさないわよ!」


 静香たちもここぞとばかりに魔法を乱発するが、冷司が〈天使の翼〉を使う方が早かった。意識を失ったままのメガミを連れて冷司、火綱、ユメ子は空中に浮かび、離脱していく。いくつかの魔法は空を飛ぶ冷司たちに当たりそうになったが、全てユメ子が防いだ。


 続けて仮面の剣士も撤退する。〈天使の翼〉を使う間際に、仮面の剣士は雅雄とツボミに声を掛けた。


「二人ともさっさと逃げろ! 今なら逃げ切れる!」


 仮面の剣士も静香たちの魔法攻撃による追撃を受けるが、全て剣を振るって打ち落とした。ゾンビ双頭竜もレベルドレインを吐き出すが、効かない。悠々と仮面の剣士は姿を消した。




 雅雄とツボミは伝説の装備が眠っているという宝箱が安置された祭壇の手前まで来ていた。とはいっても祭壇もそれなりに広いので、すぐ宝箱に取り付くことはできない。


 まだ追いかけっこを続けなければならないが、雅雄はほぼほぼツボミに追いつかれていた。あと少し距離を詰められたら、ツボミの剣は雅雄に届いてしまう。


「さぁ、ボクに道を譲るんだ! 君は逃げるといい!」


「……ッ!」


 雅雄は舌打ちする。レベルの低いステージでは、レベルが低いなりの情けない争いが発生するのだ。全く、嫌になる。


(戦って……勝つしかないのか)


 どうにか、ツボミと戦って勝つことはできるだろうか。レベル差はあるが、長船君に鍛えてもらった装備なら、あるいは……。


 しかしツボミも街道で見掛けたときから装備を更新している。Lv.30相当の戦士、騎士系が身につけるような、オーソドックスなスタイル。特殊効果はなさそうだが、その分純粋にスペックは高いと思われる。はじまりの洞窟に入り浸っていたようなので、初級スキルもいくつか身につけている可能性が高い。まともにやれば、雅雄はきっと勝てない。


 雅雄は未だ戦場に留まる静香たちの方を見る。散開してレベルドレインを避けつつ、魔法攻撃でゾンビ双頭竜を止めようとしているようだが、うまくいってはいなかった。双頭竜はその場に固定されているが、静香たちは双頭竜の腕や翼が届いてしまう位置にいるのだ。とても雅雄を助ける余裕なんてない。全滅待ったなしだ。


(宝箱の中身さえ手に入れることができたら完璧なのに……!)


 静香たちは放っておけばゾンビ双頭竜によって全滅する。メガミたちは退却してしまってこの場にはいないが、雅雄が単独でレア装備を持ち帰れば見直すだろう。パーティーに入れてくれるかもしれない。


(こいつさえ……こいつさえ倒せれば……!)


 もうどうやっても逃げ切るのは無理だ。雅雄は立ち止まって振り向き、剣と盾を構えた。やるしかない。やらなければ雅雄は終わりだ。


「へぇ……やる気なんだ」


 ツボミは自信満々にニヤリと笑う。雅雄なんかに負けるはずがない。そういう態度だ。


(誰か、助けてくれないかな……。誰か……)


 戦うと強く決意したはずなのに、助けを求めて視線が宙をさまよう。誰も助けてくれないとわかっているのに。体の震えは止まらない。今にも泣いてしまいそうだ。


「いつかの恨み、晴らさせてもらおうかな……!」


 やる気満々にツボミは剣を向ける。もういけない。無理だ。恐怖心がゲージを振り切る。雅雄はサッと身を横に引き、道を空けた。


「……僕が君に勝てるわけないじゃないか。残念だけど、今回は諦めるよ」


 うつむきながら雅雄は言う。屈辱で、声が震えた。仕方がないのだ。勝ち目がないのだから。次のチャンスを待つのが懸命である。いいところまでいったのに、無念だ。


「言っておくけど、後ろから襲ったりしないでよ? そんなことしたら、容赦なく殺すから。これに懲りたら卑怯な真似はやめることだね!」


 勝ち誇ったような顔をしてツボミは雅雄を追い抜いてゆく。雅雄は泣きそうなのを堪えて、声を絞り出した。


「……君は卑怯じゃないのか?」


 雅雄はそう思ったが、ツボミはこともなげに返す。


「何を言ってるの。ボクは実力で卑怯なことをしようとした君に勝ったんだよ」


 コソ泥同士の争いでは、確かに実力で勝っている。そんな言い訳が通ると思っているのか。


 まぁ、通るんだけれども。強者は弱者に何をやっても許させる。弱者は何をやっても許されない。これが現実だ。いつも通り、現実世界と同じように、雅雄は弱者として従う他ない。雅雄には何の力もないので、仕方がない。


「……君はやっぱり偽物だ」


 雅雄は負け惜しみを吐き捨てる。


「何の話かな? ボクはみんなを守る王子様だよ?」


 ツボミはニッと笑って祭壇への階段を駆け上がった。雅雄は下からツボミの姿を見送るしかない。ツボミは超絶レア装備を手にして、トッププレイヤーの仲間入りを果たすのだろう。他方、雅雄は底辺から抜け出せずに終わる。


 しかし、因果応報。悪いことをすれば返ってくる。この後ツボミを待ち受ける運命を、本人たちは知る由はなかった(冷静な外野がいれば気付いたと思う)。

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