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40 勇者

 前線を開闢の賢者に任せて下がっていたメガミはしばらく目を瞑ってじっとしていたが、ふいに剣を抜いて叫んだ。


「私に……みんなを守る力を!」


 メガミを中心に、オーバーライドを示す虹色のエフェクトが大きく弾けた。虹色の光は塔の屋上全体を包み込むくらいに広がる。もはやオーバーライドのビッグバンだ。光が止んだとき、そこには主人公がいた。


「待たせたね、みんな……!」


 背中から真っ白な翼を生やしたメガミはニコッと笑みを見せる。『神林メガミ Lv.99 勇者』。


「やっぱりメガミ様がナンバーワンですぞ!」


 メガミの肩でピーちゃんがピョンピョンと飛び跳ねる。ほとんど限界に近いオーバーライドだろう。いったいどれほどの意志力があれば、こんなことができるのだ。


 メガミは翼をはばたかせてふわりと空中に浮き上がると剣を双頭竜に向け、宣言した。


「一撃で終わらせるよ……!」


 空が真っ黒な積乱雲に覆われ、暗くなる。雲からはゴロゴロと不穏な音が響いていた。これがLv.99だ。天候を操るというまさに神の力を、今のメガミは行使することができる。


「『ゴッド・サンダー』……!」


 その場の誰もが、静香でさえもが、手を止めて空を見上げた。一瞬の静寂の後、雷の柱が不死身の双頭竜の巨体を包み込む。


 一拍遅れて鼓膜が破裂しそうなくらいの音量で、ドォォォォン! と心臓を握りつぶすような重低音が響く。音さえも置き去りにしたメガミの雷は不死身の双頭竜を一瞬で焼き尽くして床を貫通し、一階まで通じる大穴を開けた。屋上は傾き、床は崩れ、皆バランスを崩してその場にしゃがみ込む。


 一瞬にして雲が晴れ、周囲が明るくなる。屋上に残っているのは、灰色の煙を噴き上げている大穴だけ。メガミは公約通り、一撃で不死身の双頭竜を葬った。


 しかしメガミもこれだけのオーバーライドを使えばただでは済まない。精神力を使い果たしたメガミの背中から翼が消失し、屋上に墜落する。メガミは勇者から元のマジックナイトに戻ってしまい、倒れたまま起き上がることができない。


「う~ん、さすがに疲れちゃったね……。あとよろしく……」


 そう言い残すとメガミは気絶してしまう。


「メ、メガミ様!? こんなところで寝てしまったら、殺されてしまいますぞ!」


 ピヨちゃんは慌てるが、メガミが目を覚ます様子はない。火綱と冷司もオーバーライドによるフュージョンを維持できず、二人に分裂する。


「わ、私たちも……」


「限界のようですね……」


 火綱と冷司は気絶こそしなかったが、MPを使い切った状態でHPが赤ゲージまで落ち込んでいた。これも無茶なオーバーライドの代償なのだろう。もう火綱も冷司も、まともに戦うことはできない。


「今がチャンスよ! 絶対メガミを仕留めましょう!」


 逆に静香の率いるPK集団は元気になった。ここぞとばかりに静香はパーティーに攻撃命令を出し、メガミを殺害しようと目論む。


「しんがりは拙者に任せて、早く脱出するでござる!」


 未だに分身を保っているユメ子は一人で奮戦するが、その数は最初の半分以下に減っている。全滅するのは時間の問題だ。


 オーバーライドは万能ではない。そんなこと、メガミはわかっていたはずだ。にもかかわらずなぜ、彼女は最強のラスボスと静香の両方と一辺に戦ったのか。それはもちろん、最悪の場合でも仮面の剣士が助けてくれると知っていたからだ。メガミがラスボスを倒して力尽きたとしても、静香たちは仮面の剣士が相手をしてくれる。


「チッ……! これは厳しいな……!」


 仮面の剣士はユメ子に加勢しようとダッシュしかけるが、すぐに思い留まって立ち止まる。剣士の背後の大穴から、世にもおぞましいモンスターが顔を出していた。


「「オオオォォォオオオォォォ……!」」


 不死身の双頭竜は、死んでいなかった。鋼の鱗は無残にも融解してつららのように体から垂れ下がっているが、ともかく死んではいない。その名の通り不死身だったのだ。いくら仮面の剣士が強くても、一人でゾンビ双頭竜と静香パーティーを相手にするのは無理である。


「……『ドラグナースラッシュ』!」


 鋼の鱗を失ったゾンビ双頭竜に、仮面の剣士は剣技を繰り出した。剣士の黒剣は双頭竜の左頭部を斬り飛ばし、双頭竜は動きを止める。幸い、物理無効は消えているようだ。


 しかし、ゾンビ双頭竜が大人しくしていたのは一瞬だけだった。すぐに双頭竜の頭部は再生し、暴れ始める。ブレス攻撃は使わず、緩慢な動きで物理攻撃を行いつつ腐り落ちてしまいそうなあぎとからレベルドレインを吐き出し続ける。仮面の剣士は技を出した後の硬直で動けず、自らが盾となってメガミたちを守る。


 どうもゾンビ双頭竜は大きなダメージを与えれば硬直するようだ。オーバーライドを使って大技を連続使用すれば、完全に動きを止めることも可能だろう。ひょっとしたら時間内に一定以上のダメージを与えることで倒せるのかもしれない。強力なスペシャルラッシュを叩き込めば、勝てる。


 だが仮面の剣士にはスペシャルラッシュが使えない。レベルや職業を上書きし続けているのか、仮面の剣士は常時オーバーライドした状態なのだ。さらにオーバーライドを重ねるのは難しい。仮面の剣士にはレベルドレインが無効なのでゾンビ双頭竜と渡り合えているが、勝つことはできない。


 倒した後にゾンビ化するのは完全に想定外だった。にわかに暗雲が立ち込めてきた。雅雄とツボミはまだ宝箱を狙い続けているが、これからどうなるのだろう。

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