35 メガミのパーティー
次の日、雅雄は指定された時間にログインして、【ブレイバーズシティ】の待ち合わせ場所に向かう。メガミと打ち合わせたとおり、時間はしっかり静香に伝えてあった。静香は作戦通り人を集めて、メガミを後ろから襲撃するだろう。
待ち合わせ場所である時計塔の前には、すでに全員集合していた。
「紹介するね! 今回の攻略に協力してくれる雅雄君だよ!」
「ど、どうも……」
メガミに紹介され、雅雄はぎこちなく頭を下げた。パーティーメンバーたちはシラーッとした目で雅雄を見つめる。
口火を切ったのは火綱だった。
「ちょっと綺麗な顔してるけど、なんだか冴えない子ね……。装備もしょぼい……。メガミの知り合いなの? こんな子うちの中学にいたかしら?」
なけなしのお金と素材で〈ダークレザーコート〉の隠蔽レベルと〈シルバーシールド〉のブレス耐性を気休め程度に上げてきたのに、この言われようだ。おまけにリアルでは存在そのものを認識されていない。
火綱に続いて、冷司も雅雄をディスる。
「ああ、思い出しました。体育のときいつも残らされてる平間君です。前から思ってましたけど、なんか感じが女々しいですよね……。よくこのゲームに参加できましたね」
悪い意味で目立っていたので、冷司の印象に残っていたようだ。しかし体育の話はしないでほしい。マラソンでいつも最後尾だとか、二人組でいつも余ってるとか、激怒した先生に居残り練習をやらされたとか、トラウマの宝庫なのだ。
「弱き者を助けるのも忍びの努めでござる、ニンニン」
ユメ子はドヤ顔で言った。推定小学生にさえ雅雄は見下されている。この人たちはオブラートという言葉を知らないのだろうか。すでに雅雄は半泣きである。
「みんな、言い過ぎ! 雅雄君はとっても優しいいい子なんだからね!」
慌ててメガミはフォローする。しかしメガミが着ている鎧の隙間からひょっこりと顔を出したピヨちゃんは、ふるふると首を振る。
「だめな子ほどかわいいというアレですので、皆さん本気にしないでください。我が輩はいつも見ておりますが、彼は自分では何もしないし、何もできません。誰かが何とかしてくれるのをずっと待っているクズです」
事実なので何も言えない。しかし、なぜヒヨコにここまで言われなければならないのか。
「ピヨちゃん、そこまで言うことないでしょ! 雅雄君はちょっとシャイなだけなんだよ? どうして意地悪ばっかり言うの?」
メガミは雅雄を擁護して頬を膨らませる。ピヨちゃんは胸を張って言う。
「メガミ様が間違ってダメな男に引っかかってしまわないように、私は忠告しているのです!」
「だ~か~ら~! 雅雄君はダメ男じゃないって!」
メガミにかばってもらえばもらうほど、雅雄は惨めな気分になる。
(クソっ……! 絶対、伝説の剣を盗み出して、こいつらを見返してやる……!)
雅雄は胸の中で強く決意するが、同時にこんなことを考えている自分が立派な人間のはずがない、と思った。本当にいい人であれば、絶対泥棒のような真似はしない。こんな雅雄は、メガミにかばってもらう価値がある人間なのか。
火綱はポロリと問い掛ける。
「やけにこの子の肩を持つわね……。メガミ、ひょっとして好きなの?」
火綱の言葉を聞いた冷司は露骨に嫌な顔をした。
「ええっ。こんな見た目以外生ゴミみたいな人のこと……。ありえないでしょう!」
「プククッ……! 蓼食う虫も好き好き、でござる」
ユメ子はちょっと難しい言葉を使ってドヤ顔を決める。なぜほとんど面識がないこいつらに、ここまでボロクソに言われなければならないのだ。
メガミは慌てて三人の言葉を否定する。
「えっ、えええええっ!? そ、そ、そんなわけないじゃん! 私と雅雄君はただの友だちだよ!? ねぇ、雅雄君!?」
「そうだね、ただの友だちだよね……」
雅雄は死んだ魚の目でうなずいた。友だちと言ってもらえるだけでも、ありがたいと思わなければなるまい。メガミからすれば雅雄なんて路傍の石ころなんだから。
ともあれ、雅雄はメガミのパーティーに加わり、双頭竜の塔を一緒に目指すことなる。レベルドレインを使うラスボスがかなり手強いのではないか、というのは全員の共通認識であり、雅雄も参加は認められたのだった。
街道を歩きながらメンバーは話をする。
「ラスボスは不死身の双頭竜って名前なんでしょう? 何か引っかかるのよね……」
「きっと本当に不死身なんだよ~!」
険しい表情の火綱に、メガミは冗談めかして応じる。冷司は真面目な顔でうなずいた。
「なるほど、このゲームならありえますね……。そのために、彼を連れてきたわけですね?」
「そういうこと~! 私たちで敵のタゲとり続けて、雅雄君に武器を持ち逃げしてもらうのが一番でしょ?」
無理に倒そうとせず、メガミたちがラスボスを引きつけている間に装備だけ回収する作戦なら、リスクは少ない。雅雄の必要性はどうにか認められたようだった。
しかし、もう一つのリスクについてはどうなのか。メガミはボスと戦っている最中に静香のパーティーが乱入してくるかもしれないという話を、ここまで一切していない。
雅雄は小声でメガミに尋ねる。
「……静香ちゃんのことは言ってあるの?」
「ううん、全然」
あっけらかんとメガミは答えた。それで本当に大丈夫なのだろうか。雅雄が不安げな顔をすると、メガミはニッコリ笑って断言する。
「いいのいいの。問題にならないよ。ラスボスならともかく、PKには絶対負けない」
メガミは静香のことをかなり軽視しているようだ。雅雄からすれば、そんなに甘い相手には思えないのだが……。
「大丈夫。私を信じて! 多分、あの人も来ると思うし。ちゃんと手紙出してあるから」
「あの人……?」
いったい誰だろう。空席になっているパーティーの五人目だろうか。よくわからないがメガミには勝算があるようだ。ここまで言い切られると雅雄は何も言えない。黙ってメガミについていくことにした。




