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34 仕掛ける者と踏み潰す者

 ツボミがいなくなった後、静香はニッコリ笑って雅雄に尋ねる。


「雅雄はもちろん、やってくれるよね?」


「えっ、え~っと……」


 これは断れば殺されるパターンだ。どうしよう。雅雄は口籠もりながらも頭を回転させる。


 今回の作戦は、成功しても失敗しても雅雄に損はない。メガミに協力して首尾よく装備を手に入れたらメガミから報酬がもらえるだろうし、静香がメガミたちを倒しても同じだ。しかしそれでも、メガミをはめるというのは抵抗がある。


(いや……逆に考えるんだ。僕が静香ちゃんたちをはめて、全滅させればいいんだ)


 無血で雅雄が得するパターンを考えるなら、メガミのパーティーに参加した後、嘘の時間を静香には教えるという手もある。これなら普通に雅雄がメガミに協力したのと同じだ。しかし後から静香に殺されそうなので却下せざるをえない。


 ならどうすればいいか。逆に静香を殺せばいい。


 つまり、宝箱の伝説級武装を雅雄がゲットした後さっそく装備して、静香たちを倒してしまえばいいのである。ゲームオーバーにさえ追い込めば、静香はゲームに関する記憶を失うので報復を恐れる必要はない。そうしてなし崩し的に伝説武装を自分のものにして、メガミパーティーの正式メンバーとなる。


 いくら静香が人を集めていても、メガミが本気でオーバーライドを使えば勝てるはずがない。伝説級の剣さえ持てば、雅雄でもメガミが精神集中するまでの時間稼ぎくらいはできるだろう。


(うん……。このパターンなら僕は悪いことをするわけじゃないからセーフだ)


 結局静香のいいなりになって何もできず、メガミたちを全滅させてしまう展開になるような気もするが、そこは目を瞑ろう。その場合はわざとやったわけではないので、雅雄に責任はないといえる。セーフ、セーフ。


「や っ て く れ る よ ね ?」


 静香は雅雄に顔を近づけてドスの利いた声で再度尋ねる。雅雄は必死にうなずいた。


「やる! やります! やらせてください!」


 雅雄の言葉を聞いた静香は破顔一笑、雅雄の頭を撫でる。


「よしよし。それでこそ私のかわいい雅雄だわ」


「で、でも、香我美さんに知られちゃってるけどいいの?」


 ビクッとしながら雅雄は尋ねる。ツボミがメガミに告げ口でもすれば一瞬で計画は終了だ。そもそも、どうしてツボミを呼んだのだ。雅雄一人が静香の計画に賛同すれば事足りる。


「それも必要なことなのよ。多分宝箱に手をかけるとボスはターゲット変えるから。一人は生け贄が必要なの。ちゃんと私は雅雄のことも考えてあげてるのよ」


 静香はニッコリと笑う。つまり静香はツボミを挑発して呼び出し、雅雄の盾代わりに使う気だったのだ。


 宝箱を守っているタイプのモンスターは、大抵プレイヤーが宝箱に近づけば行動パターンを変える。なので雅雄が一人でノコノコ宝箱に近づけば、ターゲットを切り替えたラスボスに俊殺される可能性が高い。しかしそこでツボミを先行させてやることで、ラスボスはツボミを標的とする。ツボミが殺されている間に雅雄は宝箱から伝説級武装をガメればいい。


「あいつは無駄にプライド高いから、日程教えてあげておけば、メガミには何も言わず一人で私たちの邪魔しに来るわ。雅雄は上手く誘導してあいつに一番手を譲りなさい。あいつは死んで雅雄は武器を手に入れて、一石二鳥よ」


 静香はツボミも一緒に殺す気満々なのだった。無茶苦茶である。今さらだけど、とんでもないことに巻き込まれたような……。




 さっそく雅雄はメガミに話を持ち掛けてみる。雅雄は廊下でメガミが一人になったタイミングを見計らい、アタックした。


「メガミ、ちょっといいかな?」


「ん~? どうしたの~?」


 いつものようにメガミは屈託のない笑顔を雅雄に向ける。


「例のゲームのことなんだけど……」


「人がいないところで話そっか」


 雅雄が切り出すと、メガミは雅雄をある会議室に案内してくれる。机とパイプ椅子が置いてあるだけの部屋で、生徒会や委員会、部活などが広いスペースを必要とするときに使う部屋だ。


 雅雄とメガミは窓際の席に腰掛けて話をする。


「こ、この間は練習に付き合ってくれて、ありがとう。おかげで何か掴めたような気がするよ」


 後半は嘘だが、そうでも言っておかないと教官役を務めてくれたメガミに申し訳ない。


「それはよかった。でも、それとは違う話をしに来たんでしょう?」


 メガミもただならぬものを感じていたらしい。話が早くて助かる。雅雄はさっそく本題に入った。


「え~っと、双頭竜の塔って知ってる? 最近発見されたダンジョンなんだけど……」


 まず雅雄がそう訊いてみると、メガミは即答する。


「レベルドレインするボスが出るところでしょう? ボスが滅茶苦茶強いけど、凄い装備があるらしいって、みんな言ってるね~!」


 さすがメガミは情報が早かった。静香と話をするまでこのダンジョンのことを知らなかった雅雄とは大違いだ。


 この手のゲームは情報戦でもあるが、情報というのは他のプレイヤーと積極的に絡まなければ集まってこない。雅雄のような低レベルのソロプレイヤーは情報戦でも置いて行かれることになる。当たり前のようにソロプレイをしている時点で雅雄は負け組なのだ。


「聞いた話なんだけど、そのボスはレベルの低い人だったら狙わないらしいんだよ。それで提案なんだけど、僕と組まない? メガミたちがボスと戦ってる間に僕が宝箱を回収するんだ。もちろん中身はメガミに渡すよ。僕は相応の報酬を出してくれるなら、それでいいからさ」


 雅雄はどもらないように、一気に喋る。メガミは首を傾げた。


「ふ~ん。その話、誰から聞いたの?」


「そ、それは……。え~っと……」


 まさか静香の名前を出すわけにはいかない。適当に長船君とでも言ってしまえばいいところを、雅雄は口籠もってしまう。


 雅雄の反応を見てメガミは察する。


「あ、なるほど。業田さんだね? じゃあきっと、何か企んでるんだね~!」


「な、な、何のことかな? 静香ちゃんは関係ないじゃないか……」


 雅雄は思いっきり動揺してうろたえる。いや、雅雄は途中で静香を裏切る気であって、メガミを害する気はなかった。本当である。信じてほしい。自分の中で自分に言い訳する雅雄を眺め、メガミはニコニコするばかりだ。


「隠さなくてもいいよ~? 脅されてるんでしょ? 業田さんらしい手だね~。大方、ボスと戦ってるときに業田さんたちが後ろから襲いかかってくるってところかな?」


「……」


 メガミは簡単に正解に辿り着いてしまった。雅雄は言い訳することもできず、顔を真っ青にして黙り込む。メガミはこの世の終わりのような顔をする雅雄を見て、苦笑する。


「ゲームだから私はハメ技とかそういうのもアリだと思うよ? ゲーム以外でやられたら、そりゃあ怒るけどね~! だからこの話、受けさせてもらうよ。負ける気はないけどさ」


 メガミは静香の策謀に乗った上で、正面から叩き潰すことを決意する。多分、静香はメガミが受けて立つと予測していたのだ。静香は静香で、作戦がバレても問題ないと見て雅雄を送り出しているのだった。


「ほ、本当にいいの?」


 雅雄はおずおずと尋ねる。いくら静香たちでも、ボスと戦いながら静香たちの相手をするのは骨だと思うが。


「大丈夫! 私を信じて!」


 メガミは自信満々の笑顔を見せてうなずいた。しかし雅雄は気付いていた。メガミの眉が少しひくついている。メガミは静香に怒っているのだ。おそらく、つまらない小細工をされたから。


 とはいえメガミにここまで言われると雅雄は何も言えない。どうもメガミには何か勝算があるようだ。


「……よろしくお願いします」


 雅雄は神妙な顔で頭を下げた。

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