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33 悪魔の誘い

 校舎裏にはツボミもいた。先ほどのことがあるので気まずい。雅雄は目を逸らし、雅雄を見たツボミも複雑な表情を浮かべる。人目があるからか、今回は露骨に嫌な顔はしていない。雅雄一人だと、「人目」にカウントされてないんだろうなぁ……。


「それで……何の用なの? ボクは君と話すことなんて、ないと思ってるんだけど」


 剣呑な調子でツボミは静香に言った。ツボミはラブレター事件のことを忘れてはいない。有耶無耶のまま終わっているが、静香は事件の黒幕だ。ツボミだって疑っているだろう。


 しかし静香は全く動じることなく平然と本題に入る。


「二人とも、最近発見された双頭竜の塔のことは知ってる?」


 静香の問い掛けに、雅雄は首を振る。ワールド・オーバーライド・オンラインはオープンワールドのゲームだ。同レベル帯のダンジョンは大量にあるし、一足飛びでハイレベルダンジョンに挑戦することもできる。いろいろなダンジョンがありすぎて、雅雄はトッププレイヤーたちがどんなダンジョンに行っているのか、さっぱり知らなかった。


 一方、ツボミは知っていたらしく、口元に手をやって思い出す仕草を見せる。


「レベルドレインするラスボスが出てくる塔のこと? 凄い装備が置いてあるって聞いたよ。でもこの間、中堅パーティーが挑んで全滅したって……」


 静香は大きくうなずく。


「そうよ。『不死身の双頭竜 Lv.67』は文字通り二つの頭持ってて、交代で攻撃してくるから隙がないの。しかもレベルドレインまで使うから、レベルを下げられて一方的にやられちゃう。でも、あそこに置いてある装備は魅力的だわ」


 何でも、かつて魔王を討伐した騎士が使っていた伝説の剣が封印されているという話だ。その情報からすると、終盤でも使えるレベルの強力な装備が眠っている可能性が高い。


「……それで、ボクらを呼び出して何のつもり? そのボスの攻略にボクらを使うとか?」


 喧嘩腰のツボミを見て、静香は愉快そうに笑う。


「フフッ、わかってるじゃない。その通りよ」


 塔の最上階に鎮座する不死身の双頭竜はレベルの高い者を優先的に狙う習性がある。レベルが低い雅雄やツボミなら、不死身の双頭竜に狙われない可能性が高い。双頭竜に襲われることなく宝箱の元に辿り着けるかもしれない。


「報酬として、Lv.50相当の装備一式を用意するわ。それと、お金も。十万クォンくらいでどうかしら?」


 かなり魅力的な提案だ。お金も装備も今の雅雄では決して手に入らないクラスのものである。


 ところがツボミは静香に猜疑の目を向ける。


「……PK上等の君が普通の攻略を考えてるとは、とても思えないな。何を企んでるの?」


 静香は今までの行いが悪すぎる。信用されないのは残念だが当然だろう。ツボミの指摘を受け、静香はニヤリと笑う。


「企む? 人聞きが悪いわね。このゲームの本質が何かわかってる? 倒さなきゃならないのはモンスターじゃなくて他のプレイヤーよ?」


「やっぱり企んでるんじゃないか! ボクに何をさせる気なんだよ?」


 ツボミに詰め寄られても静香はニヤニヤするばかりで全く動揺はない。自分の考えに絶対の自信を持っているようだ。確かに雅雄たちは神の座を魔王やモンスターと争っているわけではなく、他のプレイヤーと争っている。そりゃあ、他のプレイヤーに危害を加えれば有利になる。


 静香は自分の計画を説明する。


「二人には、神林メガミのパーティーに潜り込んでもらおうと思ってたの。私たちにとってのラスボスは魔王じゃなくてあいつらよ。あいつらを、双頭竜の塔で全滅させる」


 計画は単純だ。メガミたちが不死身の双頭竜と戦っているところを、背後から静香たちのパーティーが襲撃して壊滅させる。いくらメガミたちでもラスボスと戦っている間にプレイヤーからも攻撃を受ければ対処できないだろう。強力なオーバーライドを使おうにも、精神集中する時間を作れない。勝算の高い作戦ではある。


 ただ、一つ問題がある。静香にはメガミたちが双頭竜の塔に挑戦するタイミングがわからないのだ。無駄に待ちぼうけしてしまうと時間制限ペナルティに引っかかる可能性がある。静香はメガミたちがいつ塔にチャレンジするか、確定させなければならない。


 そこで、雅雄たちの出番というわけだ。雅雄かツボミのどちらかがメガミパーティーに同行を申し出て、一緒に塔に行く。雅雄たちは待ち合わせ日時を静香に教えておけばいい。その情報に基づいて静香は人を集め、メガミを襲撃する。


「PKに抵抗があるなら、メガミたちを殺すのに参加してもらう必要はないわ。普通にメガミと協力して宝箱の中身を取ればいいだけよ」


 静香の話を聞いたツボミは協力を拒否する。


「話にならないね。何でボクが犯罪行為の片棒を担がなきゃならないの?」


「犯罪? ただのゲームでしょ?」


 静香はそう言うが、ツボミは相手にしない。


「ゲームでも何でも同じことだよ。そんな手を使って勝って、何が楽しいの? 正々堂々戦えばいいじゃないか」


「正々堂々やったら、あなたは私に絶対勝てないけどね」


「とにかく、ボクは君なんかに協力しない」


 静香の挑発に気分を害したのか、ツボミは鼻を鳴らして立ち去ってしまう。静香は引き留めるでもなく悠然とツボミを見送った。


「相変わらずのバカね。プラン通りに動いてくれそうだわ」

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