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32 悪魔は画策する

「おい! おまえ何者だ!」


「やめろ、こんなことしてただで済むと……うわああああっ!」


「何が目的なんだよ! げふっ……!」


 香我美ツボミは狙い目の獲物のはずだった。レベルが低く、しかもソロで活動している。カモがネギを背負ってうろうろしているようなものだ。雑魚モンスター一匹を倒すよりも簡単に、多くの経験値とお金を稼げる。


 ところが襲撃者たちは、全滅の危機に瀕していた。一人の剣士が、逆に彼らを襲撃していたからだ。真っ黒な仮面で顔を隠した剣士は黒薔薇の紋章が刻まれたマントをはためかせ、虹色のエフェクトを体中から放出しながらPKを狙っていたパーティーを簡単に殲滅していく。


「誰かのピンチには必ず駆けつけるさ……! 俺はそういう存在だ」


 刀身まで真っ黒な剣を振るいながら、仮面の剣士は喋り続ける。


「君たちの自由は、人を傷つける自由じゃないはずだ……。ゲームオーバーになってしまうのは残念だけど、責任はとってもらう」


 『??? Lv.68 ロード』。ナイトのさらに先となる上級職に就いている仮面の剣士にとって、襲撃者パーティーは通常攻撃の一撃で倒せる雑魚の集まりでしかなかった。


 仮面の剣士が黒薔薇の装飾がなされた細身の黒剣を振るうたび、PKパーティーは塵に返っていく。現時点においてはメガミさえも凌いで、彼こそが最強のプレイヤーだった。




「なるほど、厄介ね……!」


 物陰からこっそり仮面の剣士の戦いぶりを見ていた静香はつぶやく。自分も参戦してツボミを殺そうとしなくてよかった。まともにやれば間違いなく返り討ちに遭うだろう。


 こんなのがフラフラしていたら安心してPKできない。これは策が必要だ。可能ならメガミともども抹殺できればいいのだが……。



 メガミからオーバーライドシステムの講習を受けて、数日が経過した。雅雄はクリア済みダンジョンに潜りオーバーライドの練習をする毎日だが、ちっともうまくいかない。一体何が悪いのか。雅雄にはちっともわからない。


 もう一度メガミに訊いてみるべきなのだろうが、雅雄にはできなかった。メガミと雅雄では能力差がありすぎるということを改めて実感してしまったからだ。ちょっと前まではどうにか普通に話せていたのに、今は雲の上の人のように感じる。


 この状況を打破するにはどうすればいいのだろう。昼休みにそんなことを考えながら旧校舎二階のトイレから出ると、ツボミがいた。雅雄はギョッとして立ち止まる。


「……長かったね」


「ど、どうしてこんなところにいるの?」


 隣の女子トイレのドアから顔を出すツボミに、雅雄は尋ねる。どうやらツボミは女子トイレに潜んで雅雄が出てくるのを待っていたらしい。いったい何なのだ。次はツボミがいつも使っている、三階のトイレが使用禁止になっていたとでもいうのか。


「君を待ってたのさ。単刀直入に言うよ。例のゲームでボクとパーティーを組んでほしい」


 クソ真面目な顔をしてツボミは訴えた。雅雄は目をパチクリさせながら訊き返す。


「どうして?」


「一人より、二人だろう? あのゲームをクリアするのは一人じゃ無理だと思ったんだ」


 今さらかよ。ツボミの言葉を聞いて、雅雄はあきれ顔を浮かべる。そもそもLv.1とLv.11が組んでも、ゲームをクリアすることなんてできないだろう。


「そ、それに、最近危ないんだ! ソロとか、レベルが低いのとかばっかり狙ってるPKが出てるらしくて!」


 だからといって雅雄と組んでも意味はない。二人纏めて狩られるだけである。


「受けてくれるだろう?」


 ツボミはぎこちない笑顔を浮かべて尋ねる。雅雄は首を振った。


「……せっかくだけど、君と組む気はないよ。僕には僕のやり方がある」


「君のやり方って何だよ……」


 ツボミは非常に不満げな顔をして、拗ねた子どものように口を尖らせる。普段はすまし顔だが、本性が出かかっていた。多分、ツボミは本来もっと子どもっぽい性格なのだろう。それが悪いわけではないと思うが、必死に取り繕うからピエロになってしまう。


(やっぱり、この人と組んでもしょうがないな……)


 雅雄はツボミの演技には騙されない。どれだけ本物ぶったとしても、彼女はただの偽物だ。自分はどうなのだという疑問が頭の片隅でちらつくが、雅雄は無視した。


「一人で強くなるのが僕のやり方さ。君とは絶対に組まない」


 雅雄は断言して旧校舎から立ち去る。今度はさすがに雅雄と雑談しながら歩く気にはなれなかったらしい。ツボミは憮然とした表情で雅雄を見送った。




 雅雄は教室に戻り自分の席に着くが、静香に話しかけられた。


「ちょっと話があるから来てくれる?」


 いったい何の話だろう。嫌な予感がする。雅雄は渋ってみることにする。


「え……? ここじゃだめなの?」


 静香は声を低めて言った。


「例のゲームの話よ」


 そういうことなら関係者以外に聞かれるのはまずいし、静香の話を聞く価値もある。雅雄は大人しく静香に連れられ、人気のない校舎裏に移動する。悪魔のような彼女は、いったい何を企んでいるのだろうか。

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