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31 チャレンジャーたち

 結局、雅雄はオーバーライドを習得することができなかった。『Lv.20 ソードマン』さえ雅雄には高すぎる目標だったらしい。ずっと付き合ってくれたメガミに申し訳ない。


 途中で諦めて硬直キャンセルの練習もしてみたが、そちらもうまくいかなかった。スペシャルバーストの練習が悲惨な結果に終わったのに引っ張られたのだろうか。


 時間が来て、がっくりと落ち込む雅雄をメガミは励ましてくれる。


「気にすることはないよ~! 時間掛かる人結構いるから!」


「そ、そうなんだ……。だったら、しばらくがんばっていればいけるかな……?」


「きっと大丈夫! 雅雄君ならきっといい剣士に成長できるよ!」


 メガミの言葉が虚しい。気休めにしか聞こえない。でも、メガミは結構本気なのだった。


「うちのパーティー、まだ枠が一つ余ってるんだ~! みんなバランス系ばっかりで、ちょうど物理系専門のアタッカーもいないしさ……。雅雄君がもし強くなれたら、来てほしいな~、なんて……!」


「ハハハ……がんばるよ……」


 メガミははにかみ、雅雄は乾いた笑いを漏らすばかりだ。Lv.1の雅雄が、どうやってあの化け物集団についていけるというのか。




 ログアウトして自室に戻った雅雄はベッドで枕に顔を埋めてため息をつく。


「はぁ……。どうしてかな……。どうしてできないんだろう……」


 自分で口にしていて虚しい。答えはわかりきっている。できないと思っているからできないのだ。だが、メガミたちの戦闘を思い返すとあの百分の一でも雅雄にやれるとは思えなくなる。


「やっぱり諦めた方がいいのかな……」


 雅雄はつぶやいてみる。ミヤビが雅雄の顔を覗き込んでニッコリと笑った。


「とか何とかいいつつ、一ヶ月は粘るパターンね。ミヤビはお兄様のことを世界で一番知ってるのよ」


 ミヤビはまたフリフリのドレスで無駄に部屋の中をクルクル回り始めた。雅雄はため息をつく以外なかった。



 雅雄が絶望的なチャレンジをしていた頃、ツボミもまた絶望的なチャレンジをしていた。ツボミははじまりの洞窟に籠もり、ひたすらソロで戦っていたのだ。


 ツボミが狙ったのは洞窟の中ほどで出現する『ブロンズ蜥蜴 Lv.17』である。このゲーム、得られる経験値や必要経験値は人によって変わるが、お金は一定なのだ。お金を多く落とすモンスターを集中して倒せば、レベルの上がりにくいツボミでもお金はそれなりに稼ぐことができる。


 幸いツボミは「すばやさ」のステータスだけならかなり高かったので、はじまりの洞窟でなら危なそうなモンスターに遭っても逃げることは容易だった。動きが鈍いブロンズ蜥蜴はツボミにとっておいしすぎる相手である。


 他のモンスターにもお金を稼いでいい装備を揃えれば勝てるようになるだろう。スキルカードもいくつかは入手して、使えるようになっていた。必ず神になって、望むものを手に入れてやる。ツボミは永遠にツボミのままでいるのだ。


「よし、今日はこれくらいにしよう!」


 ブロンズ蜥蜴を十五体ほど倒したところでツボミは帰ることにする。タイムアップだ。ツボミは洞窟から出て、慎重に森の中を歩く。考え方によっては洞窟の中より帰り道の方が危険だ。最近、PKに走るプレイヤーが増えているのである。モンスターを倒すよりプレイヤーを倒した方が経験値もお金も効率がいいからだ。


(……人の気配がするな)


 ツボミは早足で獣道を歩きながら周囲の様子を伺う。まさかツボミを狙って誰かがこの辺りをうろついているのだろうか。ありえない話ではない。一人ではじまりの洞窟に通っていたツボミの姿は、それなりに目立っていたはずだ。PKに目を着けられたとしても不思議ではない。


(まさか業田さんとか……)


 ツボミは思わず静香の顔を思い浮かべた。静香のパーティーはPKを辞さないことで有名になっている。何でも、はじまりの洞窟でブロンズ蜥蜴を横取りしたパーティーをためらうことなく血祭りに上げたという話だ。他にも、ダンジョンでボロボロになって帰還する途中のパーティーを狙い打ちしてPKしたとか、悪い話ばかりが聞こえてくる。


 誰が相手であれ、現状のレベルと装備だと平均的なパーティーに囲まれたらそれだけで詰みだ。どうにか逃げるか、やり過ごすしかない。


 多分、逃げるのは無理だ。相手の方が人数が多いし、「すばやさ」も高い。どこかに隠れてやり過ごそう。


 ツボミは獣道の曲がり角で素早く茂みに飛び込む。


(これで見失ってくれればいいけど……)


 息を潜めながら、ツボミは緊張で冷や汗を垂らす。ツボミが動くのをやめたことで、はっきりと敵の足音が聞こえるようになっていた。足音はツボミの方に近づいてくる。


 しかし唐突に足音は途絶えた。代わりに、悲鳴と怒号が周囲に響く。


「おい! おまえ何者だ!」


「やめろ、こんなことしてただで済むと……うわああああっ!」


 もういけない。たまらずツボミは茂みから飛び出し、一目散に城壁の方へと逃げる。背後で、複数人が戦闘しているのがわかったが、振り向いて確認する余裕はない。




 【ブレイバーズシティ】の表門まで辿り着いて、ようやくツボミは後ろを見る。後ろで何が起きていたのか、当然ながら離れすぎてさっぱりわからなかった。


「……襲われてる方を助けるべきだったのかな」


 今さらながらツボミは思う。一目散に逃げてしまったが、少しかっこ悪かったかもしれない。ツボミがとるべき行動ではなかっただろう。でも、ツボミの足は止まらなかった。


「……大丈夫。レベルアップしたら何でもできるようになるさ」


 ツボミは自分にそう言い聞かせて、城壁内に帰還する。自分を欺瞞していることには薄々気付いていたが、心の奥に閉じ込めて沈める。こんなので悩むのはかっこ悪いことのはずだ。結局何が起きていたのかは、わからなかった。

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