16 クエストの報酬
「大丈夫?」
雅雄はまだ座り込んで震えているシノに手を貸して、立たせる。しばらくシノは放心していたが、ふいに雅雄に抱きついて泣き始める。
「わ~ん、怖かったがね~!」
「え、ちょ……!」
雅雄は動揺するが、シノは離してくれない。シノの涙の熱さとか、体の柔らかさとか、女の子特有の甘酸っぱい臭いとか、とにかく何もかもがゲームとは思えないくらいリアルで、柄にもなく雅雄はドキドキしてしまう。
「二人とも、無事かい……?」
足を引きずりながらシノのお父さんがこちらにやってくる。もう敵はいないらしい。とりあえず、クエストは完了したようだった。
帰り道もそれなりに大変だった。シノがお父さんを支えて歩くのだが、当然モンスターに狙われることになる。逃げるという選択肢がなく、雅雄は出てくるモンスター全てと戦わなくてはならない。
しかしきつい道中だったはずなのに、雅雄は不思議と疲れを感じなかった。クエストをクリアした達成感もあるが、先ほどシノに抱きつかれたことによって自分でも驚くほど高揚しているのだ。女の子にあんなことをされたのは初めてだった。まだシノの感触が体に残っている。
(シノ、柔らかかったな……)
雅雄は思い出してニヤニヤしてしまう。静香がいたずらしてくるときとは全然違う。暖かくて、優しかった。慌てて雅雄は首を振り、余計な思考を頭から追い出す。相手はNPCだというのに、何を考えているのだ。
(間違って仲間になってくれないかな……)
このイベント限りのゲストキャラだと頭では理解しているが、そう思わずにいられない。雅雄が攻撃役をやって、シノが回復を担当してくれればバランスのいい二人パーティーだ。
(冒険者になりたいなんて言ってたっけ……)
ひょっとしてフラグが立っているのでは……? 村に戻ったら、誘うだけ誘ってみよう。
程なくしてシノの家に到着した。シノは怪我しているお父さんを大部屋のベッドに寝かせ、雅雄を自室の小部屋に案内する。決して大きくないシノの家には土間や台所の他にこの二部屋しかなかった。
自分のステータスウィンドウを確認してみると『Time Locked』の表示が出ていた。この家にいる限り持ち時間は減らないらしい。宿屋に泊まって体力回復するときと同じだ。宿屋なら十分ほど滞在すれば体力が全快する。
「雅雄のおかげでお父さん助けられたからね……。これ、お礼よ。受け取って~な」
そう言ってシノは雅雄に〈身代わりのお守り〉を差し出してくる。雅雄は受け取った。
「ありがとう。大事にするよ」
思った通り、死亡しても一度だけなら無効にしてくれるアイテムである。死亡=ゲームオーバーのこのゲームで、残機1を確保できたのは大きい。続けて雅雄は申し入れる。
「よかったら、僕と一緒に来ない……? ほら、冒険者もいいかも、って言ってたし……」
「私が……? 雅雄と一緒に……?」
シノは目を丸くしたかと思えば、ポロポロと涙をこぼし始めた。雅雄は慌てる。
「え……? ごめん! 気に触ること言っちゃった……?」
「違うんよ……。嬉しくて泣いてるの……!」
シノは泣き笑いを浮かべて雅雄を見上げる。シノがとてもかわいく見えた。
「誘ってくれるのは本当に嬉しいんよ……。冒険者になりたいっていうのも本当やしね……。でも、ごめんなさい。お父さんを一人にはできないから、雅雄と一緒には行けんがね……」
シノは少し寂しそうな顔をする。予想通りの答えではあったが、雅雄は心底残念に思う。
「そっか……。そういうことなら、仕方ないね……」
「ごめんな。私はこの村から出たことない。だから、外の世界を見てみたい気持ちもあるんよ。でも、私はお父さんもこの村も大好きやから……」
シノは雅雄の手をぎゅっと握る。
「もう、行くんやろ?」
「うん……」
イベントが終わり、もうこの村に用はない。一日でも早く雅雄は次の町を目指さなければならない。まだ今日の持ち時間は一時間ほど残っているので、すぐにでも出発することになるだろう。
「本当に、ありがとうな。私を助けてくれたときの雅雄、凄いかっこよかった。感謝してるんやからね……!」
「えっ……?」
シノは熱っぽく潤んだ瞳で雅雄を見上げ、そっと雅雄の頬にキスをした。熱い吐息と、柔らかい唇の感触で、雅雄はフリーズする。
「たまには、この村に遊びに来てな。約束やで」
「う、うん……!」
雅雄は真っ赤になってうなずく。女の子のこんな表情を見るのは初めてだった。
シノの家を出た後、雅雄はさっそく次の町に向かう。森を道なりにまっすぐ進めばいいだけなので、楽勝だった。出てくるモンスターも今の雅雄の敵ではない。雅雄は首尾よく森を抜け、次は【名もなき町】に到達した。




