第1話 E級の産声
「オギャアアアッ!!」
窓から見える木々はざわめき、心地の良い春風が部屋に吹き込むとある日。
一人の赤ん坊の産声がアルスーン王国屈指の病院に響き渡った。
「ルークス様。ナラク君の固定スキルの鑑定結果が出ました。お子様の固定スキルの名称は《魔物使役》です」
白衣を着た男が、赤ん坊のそばに立つ婦人にそう伝える。
その婦人は数時間前に出産という命懸けのイベントを終えたばかりだった。その身には、一目で貴族だと分かるほどの数多の宝石で装飾された青いドレスを纏っている。
「魔物使役??聞いたこともないスキル名ですわね。きっと新生スキルですわ!!SRが楽しみですわね〜!!」
婦人ことナラクの母、アンネ=ルークスは上機嫌な様子で扇を仰いだ。その一連の佇まいからは、洗練された気品のような何かが感じられる。
「スキル鑑定士によると、魔物使役とは心を通わせた魔物と深い契約を交わし、その契約した魔物を戦わせる攻撃色のスキルのようです」
白衣の男はそう淡々と説明する。
我が子のスキル内容を聞いたアンネは、さきほどのそわそわした様子とは打って変わり、不安そうな表情で顔を顰めた。
「魔物と契約ですって…??先生、それは世間的に大丈夫ですの??」
「少々お待ち下さい、ルークス様。それも含めて、新生スキルか否かも調べてまいります」
「よろしくお願い致しますわ」
そう言い残すと白衣の男は部屋のドアを開け、どこかへと姿を消してしまった。
「よかったわねぇ。ナラクちゃん。もし新生スキルならB級は硬いわよ〜!ちゃんと努力してルークス家を背負っていくのよ!」
「ううぁぁう!きゃははは!!」
アンネは、横にある小さいベッドに寝かされたナラクの頬を擦って愛でた。
この世界では、誰しもが必ず一人一つ「固定スキル」を携えてこの世に産まれてくる。
「固定スキル」とは、一言で言い表すとすれば、『その個体の持つ唯一の特殊能力』である。例えば、自由自在に火や水を発現させる者。呪文の威力が上がる者、単純に料理が上手くなる者や死者蘇生が可能な者など、その内容は多岐に渡る。
そのことから固定スキルの内容によって階級が定められることになっており、スキルの強さと希少さにより《E級》から《S級》までの六段階の内どれかに定められる。
そして、このアルスーン王国では固定スキルの階級が全てである。生まれ持ったスキルの内容だけでその者の職業やキャリアが国によって決められてしまうほどに。
要は生まれ持った固定スキルが強ければ強い程、王国内での地位や立場を確立できるのだ。
また、基本的にはすでに確認済みのスキルを持って生まれる者がほとんどである。しかし、極々稀に既出のスキルではなく、未確認の「新生スキル」が判明する事がある。
新生スキルはその貴重さ故、重宝される傾向にあり、少なくとも《B級》より下の評価を与えられることはまずなかった。
ーーなかったハズだ。
「ルークス様、おめでとう御座います。ナラク君のスキルですが、全国データサイトにて検索してみた結果、未登録との回答が出ました」
「まぁ!という事は先生…!ナラクちゃんは!」
「はい。『新生スキル』ということになります」
「鼻が高いですわ!!して先生!ナラクちゃんのSRはいかがでしょうか??」
アンネは鼻息を荒くして白衣の男に詰め寄る。
「それが…、大変申し上げ難いのですが、上の者に掛け合った結果、ナラク=ルークス様のSRを《E級》とさせていただきます」
アンネの顔がフリーズする。
「え??え…??ちょ、ちょっと待ってくださる??《E級》…!?《B級》の間違えではなくって??」
「はい…。《E級》でございます」
予想だにしない結果を耳にしたアンネは、まるで全身の骨だけが抜き取られてしまったかのように、その場でぐにゃぐにゃとへたり込んだ。
「そ……、そんな!!ルークス家から《E級》が生まれてしまったわ。嗚呼…コレどうしましょう…!!」
窓から吹き込む風が凪ぎ、病室の空気の温度が一段と下がっていく。
そこには、ナラクに対して母の持つ無条件の愛を向けていたアンナの姿はなかった。その代わり、どこまでも残酷で冷たい目でナラクを見下ろしている。
この世界では、約六百年前から人類と魔物で構成された魔王軍で領土をかけ、激しく争い続けてきた。
故に魔物=大敵という固定観念が植え付けられたこの世界において、魔物を操るナラクの固定スキルは認められるハズもなく、新生スキルにも関わらずに最低ランクである《E級》の落第印を押されてしまったのだ。
そして《E級》であることを聞いたこの瞬間から、母アンネ=ルークスにとっても、ナラクの存在自体がゴミに定まってしまっていた。
「私は退院しても良いかしら??そろそろお暇しますわ。退院できる日が決まりましたらご連絡下さる?これを引き取りに参りますので」
驚くほど低く冷たい声音でアンネはそういうと、手荷物を持ってドアの方へと歩き出した。
「かしこまりました。即日退院ですね。ナラク君の件も看護師の方に伝えておきます」
「では、ごきげんよう」
そのままアンネは、何も知らずに空に手を伸ばし笑うナラクを見向きもせずに、部屋から出ていってしまった。
バタン!と投げやりに閉められた扉の音は、産まれたばかりのナラクを泣かせるのに十分だった。
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《Profile》
アンネ=ルークス (女 現54歳)
SR B級
固定スキル 言語理解
得意呪文 サポート系 回復系
好きな物 宝石 豪華なもの全般
嫌いな物 黒光りする神速の虫 ナラク
・実年齢より十代程若く見え、気品に満ち溢れた顔つきと透き通ったベージュ色の髪をしている。よく後頭部で丸く束ね、お団子の様にしている。名家で有名なルークス家に嫁いでおり、ルークス家の品格を落とさぬ様に日々努力している。そのためか、常に品格と礼儀を求めており口煩い。固定スキルは言語理解。全ての国の言語を耳から入れても頭の中で自動翻訳できる。しかし、魔物の言葉は理解できない。保有者が少ないため、SRも高め。




