2日目1
翌日の朝。
蓮は寮の食堂へ行く準備をしていた。顔を洗い、寝癖を直す。
部屋着のまま部屋から出ると、こちらまで歩いてくる宵が見えた。彼も部屋着だ。
「おはよう蓮」
宵の目元にはクマが濃く浮かんでいる。心なしか顔色が悪いように見えた。
「おはよう。眠れなかったの?」
「うん、昨日は色々ありすぎて……考えちゃって眠れなくて……」
その色々の中のひとつが宵の目の前にいることに、蓮は気付いていない。
元から中性的な容姿や性格ではあった。もしかしたら正体に気付く者は現れずに無事に卒業出来るかもしれない。少し期待しても良い気がする。
だが昨日の朝に突然自分と同じ制服を着て現れたあの光景を思い出すと、くらりと目眩がした。
「宵、大丈夫?」
「うん……」
宵は空返事を返す。
自分のためにここまで来てくれた親友を責めることはできない。
食堂に着き、米をよそって食事を受け取った。
蓮と宵は向かい合わせに席に座る。茶碗の半分もない米をつつきながらぼおっとする宵の横に、クラスメイトがやって来た。
「宵、蓮、おはよう」
「おはよー飛鳥」
飛鳥だった。昨晩のことは何事もなかったかのように、それどころか長年仲が良い友人のように接してくる。
「ああああすか!おはよう!」
「おー、昨日はありがとな!また今日も来るか?」
宵は首を横に激しく振る。
「ごめん用事があって!」
「残念、蓮は?」
「えっいいの?行こうかな」
蓮は誘われたことが嬉しくて目を輝かせた。リスクなど何も考えていない。
こういうところがまた宵の気力をこっそりすり減らしていく。
「よっ」
挨拶と共に、飛鳥の前に樹が座った。
「おす樹、今夜もどうだ?」
「んー、パス」
樹が適当に断ると、飛鳥はそっかーとあっさり引き下がった。
斜め前にいる蓮の顔を覗き込むように眺める。
「じゃあ蓮とサシか」
「!? だめだめだめ!」
宵は飛鳥に向かって顔をぶんぶんと横に振りまくる。
無意識に立ち上がり、蓮の両腕を掴んだ。飛鳥から遠ざけるように威嚇している。
「えー駄目?」
「昨日蓮にセクハラかましたからビビられてるんだろ」
樹にそう言われた飛鳥はけたけた笑った。
「冗談だよ宵〜!ごめんって!」
湿度が高い視線で自分を眺めている宵の背中をばしっと叩く。
か弱い宵は変な音を出し、衝撃で蓮から離れた。
よろよろと席に座った宵は必死な様子で声を出す。
「ていうか蓮、宵と約束してたじゃん!」
「えっそうだっけ?ごめん忘れてたよ」
嘘だ。だが蓮は本当に自分が忘れていると思い込み、素直に謝る。
飛鳥にも手を合わせた。
「というわけで飛鳥ごめん!また誘って」
「ちぇー、わかったよ」
飛鳥はしょんぼりとあからさまに落ち込む。
宵は心拍数が上がるのを止められそうになく、ますます食欲が失せているのを感じた。
「それにしても蓮、朝から結構食うんだな」
樹は蓮の前にある食事を眺めた。
茶碗に山盛りのご飯、バターが乗ったトースト。
満タンに入った具たっぷり味噌汁、なぜか大きな焼き魚、添えてあるキャベツやトマトまで大盛りだった。樹と飛鳥のもそれなりにあるが、比べ物にならない量だ。
「昨日たくさん食べてたのを覚えてくれててさ、盛ってくれたんだよ」
蓮はそう言うと、食事を作ってくれている厨房の方を見た。ちょうど中のおばちゃんと目が合う。蓮はにかっと挨拶をすると、ぶんぶんとおたまを振り返してくれた。
「それにしてもすごいな、食べ盛りだ」
「へへ」
飛鳥の言葉に、蓮は嬉しそうに食べ進める。
もしかして大丈夫かも……?と、宵はなぜかほんの少しだけ思いだした。




