プチ歓迎会3
「樹は悪くないよ!」
蓮は勢いよく樹に近付いた。一気に距離が詰められ、樹は思わず顔を上げる。
「宵は見た目で誤解されて近寄りがたいのはわかるし、それに宵だってもう少しだけでも勇気を出せば良かったのかもしれないよね」
「それは……」
「そんなに人間、完璧に動けないっしょ!僕も同じ立場だったら声かけられないかもしれない」
何と答えて良いのかわからず、樹は黙るしかない。
あまり納得していないような彼の様子を見て、蓮はあとね、と続ける。
「僕、もうこの学校が気に入ったんだよね。
だから僕のことは全然気にしなくていいよ」
初日から歓迎会があったことがそんなに嬉しかったのか、と樹は思いかける。
「僕、7人兄弟なんだよね」
「7人!?」
樹の声が裏返った。
「うん。実家に僕の部屋なくて、何をするにも近くに誰かしらいてさ。
だから静かに過ごせる自分の部屋が出来て嬉しいんだよね。寮最高!」
のびのびーっと両手を上げ、蓮はそのままごろんと寝転がった。
樹は呆気に取られて言葉を失っている。
と、思い出したようにあっ、と呟くと蓮は樹を見上げた。
「もちろん、樹と飛鳥と仲良くなれたことも嬉しいんだからね!
だから僕はここに来て良かったよ」
蓮の真っ直ぐで濁りのない言葉が、樹に届く。
樹の中にずっとあったものが、ようやく少し溶けるような気がして。
樹は、初めて蓮の前で笑った。
宵と飛鳥が戻って来ると、1台のスマホを蓮と樹が覗いていた。
中学時代の蓮と宵、クラスメイトが写っている。
「俺にも見せてよ」
飛鳥が2人の間から顔を出した。缶を片手に画面を凝視する。
そして、すぐ横にいる蓮の顔を眺めた。
「蓮、やっぱお前まあまあ可愛い顔してるよな」
ぎょっとする蓮と宵。
「何言ってんの!飛鳥飲み過ぎだよ」
「いや、最初見た時から思ってた。俺、お前ならいけるよ?」
笑い飛ばそうとする蓮に、飛鳥は真剣に返す。とすぐに樹が飛鳥の頭を小突いた。
「こら、だる絡みやめろ」
樹は飛鳥の肩を雑に掴み、蓮から引き離す。
「こいつ最近彼女と別れてからこんな感じなんだよ。
この前俺にも似たようなこと言いやがったから気にすんな」
「お前には可愛いなんて言ってねえぞ」
「俺とは違うなんたらとか言ってたじゃねえか。明日も学校あるしそろそろ解散」
「やだ!まだ11時前じゃん!」
「うるせえ、とっとと片付けるぞ」
樹は駄々をこねる飛鳥を無視して掃除を始める。蓮と宵も慌ててゴミを集めて袋へ入れると、あっという間に何もない綺麗なローテーブルに戻った。戻っていないのは飛鳥だけ。やだやだと声を上げて訴えている。
「だめだあれ、2人とも先に帰っていいぞ」
「え、でも」
「よくあることだから」
樹は飛鳥を引っ張ってベッドに放る。そのまま寝かしつける気だろうか。
あまりにどうということでもない態度の樹を見て、蓮と宵はお言葉に甘えることにした。挨拶を交わし、何かを言っている飛鳥の言葉を遮り、ドアを閉める。
蓮と宵は、ふらつくこともなく自室へと歩き出した。
「……最後ちょっとびっくりしたなあ」
宵が呟いた。
「うん」
蓮も同意して、ため息をつく。
「蓮は確かに可愛いんだから、これから心配で心配でたまらないよ」
「宵までそんなこと言って」
「本当のことだよ」
宵は蓮を見下ろした。自分より遥かに小柄で華奢な体。髪型も部屋着もさほど目立たないもののはずなのに、かえって本人が際立つように見えてしまう。
親友に対する贔屓目なのかもしれない。
蓮の部屋の前に着くと、宵は蓮の頭をぽんと撫でた。
「鍵、ちゃんとかけるんだよ」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
蓮は部屋の鍵をかけた後、宵の足音がここから離れていくのを聞いていた。
洗面台へ行って歯を磨いて。寝る準備を整え始める。
大きめのパーカーを脱ぎ、開封されていない段ボールの上に放り投げた。
続いてTシャツ。厚手の肌着。
胸を抑えている運動用の下着。
暗闇の中、カーテンの隙間から差し込む光が、締まったくびれと薄く割れた腹筋の輪郭を一瞬照らす。
似たような部屋着に全身着替えるとベッドへ横たわり、そのまま眠った。




