プチ歓迎会1
「おじゃましまーす」
部屋の主に促され、蓮と宵は初めてそこに足を踏み入れた。
ふわりと漂う、薔薇とウッドが合わさった鋭い香り。
飛鳥の部屋は家具が黒で統一され、大人びた雰囲気をしていた。
きちんと掃除がされていて、埃ひとつない。
一方、整理しきれていないダンボールだらけの地獄のような自室を思い出し、蓮は思わず小さなため息をついた。宵は相変わらず緊張している。
彼とは正反対に、樹は慣れた様子でカーペットの上に胡座をかいた。
「何飲む?」
小さな黒い冷蔵庫を開け、飛鳥が尋ねる。
2人の返事を待つ間、樹に聞かずとも缶を手渡した。
何があるのかわからず、蓮と宵は冷蔵庫に近付き中を直接覗く。1番飲みやすそうな、レモンが描かれた缶を2人とも選び飛鳥から受け取った。
全員ローテーブルを囲み、輪になってカーペットに腰を下ろす。
「じゃあ、宵よろしく、蓮ようこそってことで!お疲れ〜かんぱーい」
飛鳥の音頭の後、軽い金属音が響いた。
飛鳥はスツールをごそごそと漁り、テーブルに食べ物を広げ始める。
「これ美味しそう、食べていい?」
「どーぞ」
蓮はやったーと喜びながら迷いなく手を伸ばした。
遠慮のかけらすら感じず、既にリラックスしている蓮を見て宵は少し引く。
飛鳥が2人の様子を見て吹き出した。
「お前、今日転校してきたのが嘘みたいに緊張感ないな。
むしろ宵が転校してきたみたいな感じだし」
「あっはは」
飛鳥の言葉に、今度は蓮が笑った。宵は恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
「蓮が慣れるの早すぎなんだよお……」
「そう?」
飲み食いしながら適当に返事をする蓮に、宵は「もう〜」と唇を尖らせた。
普段クラスでは見ない、宵が人と自然に関わっている様子を見て、樹と飛鳥は新種の動物と遭遇しているような、新鮮な気分になっていた。
「そういえば、宵と蓮の中学ってここから結構離れてるんだよな?」
樹が話を振ると、宵はこくこくと頷いた。
「うん、片道3時間かかっちゃう」
「3時間!?」
飛鳥が声を上げた。
「なんで地元の高校じゃなくて、わざわざここを選んだんだ?」
続けて問いかける樹。蓮と宵は顔を見合わせ、しばらく見つめ合った。
なぜか宵の顔色がみるみるうちに赤く染まっていく。
宵は口をぱくぱくと動かしているが、声は出ていない。
「えーっとね……」
蓮は困ったように頭を掻きながら、視線を宙に泳がせる。
しばらく空中をぐるぐると彷徨った後、気の抜けたような声で
「な、ないしょ……」
ふにゃりと笑って誤魔化した。




