初日5
「それでね!それでね!与田くんと隣の席になってね、授業のこと聞き合ったり雑談もできたんだよ!」
夕飯を終えた夜。宵の部屋で、興奮気味の声は震えていた。
高校生活が始まって数ヶ月、初めて起こった嬉しい出来事を目の前の親友に話す。
蓮は長座布団に座り、その報告をにこにこと聞いていた。
「友だち出来たんだ!良かったねえ!
……僕、わざわざここに転入して来なくても大丈夫だったかなあ?」
微笑んだまま、ちょっとだけ寂しそうに蓮が呟く。宵は慌てて両手を振った。
「そんなことない!蓮が来てくれたからきっかけができて話せたんだよ」
それを聞いてころっと表情を変え、ふーん?と蓮は宵を見る。
さっきの態度は冗談だった、といった様子だが、宵は必死に訴えた。
「本当だよ!蓮のおかげなんだ。むしろ蓮がずっと大変になっちゃうから、宵はそれがただ心配で申し訳なくて……」
「わかったわかった、来た甲斐があって良かったし、そんなことないから心配しないで」
「蓮……」
また涙目になる宵。蓮は驚きもせず、頭をよしよしと犬を撫でるように掻き乱す。
その時、ドアのノックがコンコンと響いた。
いつもならありえない客人に、宵の体がびくんと跳ねる。
「御伽、入っていいか?」
「え!?あ!はい!」
ガチャ、とドアが開く音。そこには見覚えのある姿があった。
樹だ。ただ、後ろにもう1人姿が見える。
「あれ、瀬戸口さんもいるじゃん!まじで友だちだったんだ」
赤茶色の少し長めの髪。
樹よりも少し背が高めでおちゃらけたような彼もまたクラスメイトだった。
樹の横をすり抜けてずかずかと部屋に入ってくる。蓮は軽く頭を下げた。
「どうも、えっと」
「人見 飛鳥だよ。よろしく。飛鳥でいいよ」
「飛鳥よろしくね。僕のことも蓮って呼んで」
蓮は樹を見上げる。
「えっと、そちらは」
「与田樹。俺のことも樹でいい」
「宵を助けてくれた人か!さっきはありがとうね!」
蓮は立ち上がり、顔を上げて笑顔で礼を述べた。
「いや、別に特に何もしてないけど……」
嘘は言っていなかった。ただクラスメイトに声をかけ、授業を共に受けただけ。
ただ普段クラスで浮いていた宵に少し気を遣ったことは否定出来ない。
気まぐれで行った行動に思わぬ感謝をされ、樹はなんだか気恥ずかしい気持ちになった。そのやりとりを飛鳥がにやにやと眺めながら、用件を切り出す。
「良かったら今から俺の部屋で軽く飲まない?」
「え、いいの!?」
飛鳥の誘いに、蓮は目を輝かせた。
「週末じゃないから軽くだけどね。樹から宵が面白かったって聞いてるから話してみたいし。蓮が転入してきたわけだからプチ歓迎会も兼ねてってことで。どう?」
「やったー!行く行く!」
ノリノリで返事する蓮。振り返ると、そこには今にも倒れそうな宵の姿があった。
やっとクラスメイトと会話が出来た自分が、飲み会。それも飛鳥はクラスでとびきり目立つ存在だった。今日話せたとはいえ、その飛鳥と仲が良い樹。
その2人と自分が話している様子を想像しようとして……出来ない。
勇気が持てず、本当は断りたかったが。
「宵も行くよね?」
蓮の嬉しそうな笑顔を見る。もし、自分が断って蓮1人で行くことになってしまったら。宵にはどうしても気掛かりなことがあった。
「うん……行く……」
心臓がばくばくと動いているのを感じながら、力なく答えた。
「よーし、来い来い」
飛鳥もまた蓮と同じくらい明るく嬉しそうに声をあげ、手招きをする。
樹は無言だが、2人が部屋を出るのを待っていた。全員が宵の部屋を出る。
がちゃり、とドアの鍵がかかった。




