初日3
しばらく時間が経ち、宵はやっと泣き止んで落ち着いた。
2人は他の生徒たちよりも遅れて食堂へと向かう。
入り口をくぐると、広々としたフロアのあちこちから男子生徒たちの騒がしい声が響いていた。食券を買い食事を貰って空いてる席に向かい合わせで座る。
同じクラスの何人かの視線を感じて、宵は思わず肩をすくめた。
「いただきまーす」
一方蓮は視線に気付いていないのかどうでもいいのか。なんてことない様子で昼食を取り始めた。男子校ならではの看板メニューのデカ盛りカツ重定食。お腹すいてたんだよねーと、蓮はどんどん食べ進めていく。
一方宵の目の前には、ポテトサラダが挟まった小さな惣菜パンがひとつだけ置かれていた。食欲がまるでないようだ。
「ねえ宵」
蓮の前のカツ重がどんどん減っていく。
「午前中ずっと宵のこと見てたんだけどさ、誰とも喋ってなかったよね?」
「うっ……」
「直接宵から話聞いてはいたけどさ、本当に1人も友だちいないんだ」
悪気のない親友からの指摘。宵の心にクリティカルヒットした。
正面から事実を突きつけられた宵は食べかけのパンを握りしめる。
「い、いじめられてるとか、そういうわけじゃないんだよ?
ただその、みんな、すごく元気で、男子って感じで……。
なかなか宵から話しかけることができなくて……」
絞り出すような声。ガヤガヤとした声に掻き消されそうだった。
周りはどこを見渡しても男、男、男。
地鳴りのような騒がしさの中、食器が割れる音が響く。
上級生のような野太い声が怒号を飛び、宵は怒鳴り声にびくりと怯えた。
内向的で大人しく、中身は繊細な宵。
蓮は箸を置くと、身を乗り出すようにして真剣な目を宵に向ける。
「1学期の間、ずっと心配してたんだよ。
会うたび『居場所がない、友だちがいない』って、落ち込んでいたから。
でも1番の友だちの僕がここに来たから、もう寂しくないよね?」
その優しい声に、また宵の瞳から涙がボロボロと溢れ出す。
嬉しさと申し訳なさに耐えきれず、テーブルに突っ伏しワッと号泣した。
190センチ近い大男が声を上げて泣き始め、周囲の生徒達はざわつく。
しかし、今の宵には周囲の目など気にする余裕はなかった。
突然ばっと真っ赤な顔を上げて訴える。
「宵の、宵のせいで蓮の人生を変えてしまって!蓮はここにいちゃだめだよ!
宵のために来てくれたのは、本当に本当に嬉しいんだけど……!」
宵の言う通り、本来蓮はここにはいないはずの人間だった。
必死に懇願する宵の声が、食堂に混ざり合う。
「蓮、前の学校にすぐ戻って、お願いだから……」
「え、無理だよ?入学金も授業料も払っちゃったし」
喉から絞り出すような宵の声に対し、蓮のあっけらかんとした一言。
「にゅ、入学金?授業料?」
涙で目を潤ませたまま、宵は間の抜けた声を出す。あまりにも現実的すぎる返答に頭がフリーズした。
「うん。ここ私立だし、全寮制だしさ。結構な額支払ってるんだよね。親に悪いし無理かなー」
蓮は再びカツ重に箸を伸ばす。
「そ、そんなあ」
でもなんでこんなことができてしまったのか。宵はまた疑問を思いつく。
「お、親御さんは!? 反対されなかったの……?」
「父さんも母さんも誰がどの学校に行くのか、ごっちゃごちゃになってて気づいてないかも?」
「……え?」
間の抜けた声を出すと同時に宵は思い出した。蓮の兄弟のすさまじい人数とその構成。
1番上が3つ子の姉弟、2番目が蓮を含む双子、3番目がまた双子。
それぞれ大学、高校、中学進学の歳だった。
親のチェックをすり抜けた理由がまさかの豪快な見落としだったことに、宵は完全に言葉を失った。
「兄ちゃん姉ちゃん達や僕はともかく。
景と桃の部活が今年から始まって、それぞれ違う部活だからね。
送り迎えも大変だし。高校生以上の子のことはわかってないんじゃないかなあ」
「そんなことある……?」
そして宵は気付いてしまった。蓮の転入前の高校にすら見逃されていることに。
いつの間にか、宵の涙は既に引っ込んでいた。




