予熱1
「おかえり、大丈夫だった?」
亮悟は戻ってきた蓮と樹に問いかけた。
「大丈夫そうだけど、今日はもう寝かせておきます」
「それがいいかもね。じゃあ、僕ももう戻ろうかな」
んー、と伸びをして、亮悟は立ち上がる。
「飛鳥寝ちゃったしね」
亮悟の目線を示す先には、黒いカバーのシングルベッド。この部屋の主、飛鳥がベッドですやすやと眠っていた。と、蓮ははっとした顔をする。
「ここの鍵どうしよう。開けっぱなしで出るわけにはいかないし、泊まるのはちょっと」
「僕が持って帰るよ。明日返しておくね」
蓮が戸惑っていると、亮悟がさらりと飛鳥の部屋の鍵を回収した。2人を待っている間に亮悟が片付け、綺麗になった部屋の照明を落とす。全員が外に出た後、亮悟はがちゃりと鍵を閉めた。
「じゃあ今日はありがとう。また遊ぼうね」
最後までにこやかに亮悟が去り、蓮と樹が残される。
樹が蓮を見下ろして声をかけた。
「戻るか?」
「うん、そうだね」
2人は並んで廊下を歩く。蓮と樹の部屋は、少ししか離れていなかったことがわかった。意外と近いんだね、と蓮が笑う。
「じゃあな、お疲れ」
「おつかれー。……あれ」
樹が自室に入ろうとした時、蓮が焦っている声がしてその動きを止めた。がさごそと、ポケットの中を漁っている。
「どうした?」
「鍵がない……飛鳥の部屋に忘れたかも」
樹は亮悟に電話を掛けたが、出ない。眼の前の蓮は困り果てていた。
寮のエントランスのソファを思い出した瞬間の蓮に、声を掛ける。
「俺の部屋泊まってくか?」
「えっ……いいの?」
迷いながらも、蓮は訪ねた。
「このまま廊下で立ってるわけにはいかねえだろ、ほら」
樹はドアを大きく開け、蓮を招いた。
「ごめんね、ありがとう」
蓮は促され、おずおずと入っていった。
樹の部屋には余計なものがほぼ置かれていなかった。
床はフローリングだが、ゴザや座布団が敷いてあり、和風だ。
よく見ると、ベッドの下に筋トレの道具が並んでいた。
「樹、筋トレしてるの?」
「あぁ、軽くだけど」
「いいねーちょっと借りていい?」
承諾を得た蓮はダンベルを持ち上げる。
自分が持っているものより遥かに重い。樹もやはり男性なのだな、と蓮は感心した。
「せっかくだし、いるか?」
樹は冷蔵庫を指差す。
飛鳥のところまでとは言わないが、色々な種類の飲み物が入っていた。
「ありがとう。これ貰うね」
座布団に座って缶を開けながら、蓮は部屋を見回した。
樹の部屋の床にはゴザが敷かれていた。その上に木製のローテーブル。その周りには座布団が3つ並んでいる。備え付けのベッドの近くに置かれている照明も、和紙で出来ている和風のものだった。
蓮はゴザの上にごろんと転がり、うーんと伸びをする。
「今週は疲れたなあ」
「転校してまだ2日だからな。お疲れ」
樹が蓮を労った後、
「俺も今日はすげえ疲れたよ……」
呟くように漏らした。
「あっはは!飛鳥やばかったもんねえ」
「本当だよ、今やっと落ち着けるわ」
まだ仲良くなって間もない自分がいるのに。樹の落ち着ける、という言葉を聞いた途端、蓮は嬉しくなった。




