夜のディベート1
「え!そうなの!?」
宵は憧れている人を追ってここに来た。それは蓮も知っていたが、予想外の人物像で驚きを隠せない。だっててっきり……
「宵の憧れる人って、見た目がすごく強そうな人なのかなって思っていたよ」
「うん、そういう人もかっこいいよね。でも」
恥ずかしいような、照れているような。
室内で2人きりのはずなのに、内緒話をするように小さな声で宵は呟く。
「中学のときたまたま結城先輩を見る機会があってさ、その時思ったの。
この人、すごく素敵だって」
蓮は、それは本当に本心からの言葉だとすぐに悟った。
素直な気持ちをやっと白状できた安堵を彼から感じる。
蓮は先ほど会ったときの様子を思い返した。
黒くて癖のない長めの髪に、端正な優しい顔立ち。
蓮が見下ろすくらいにの小柄。160センチもおそらくないだろう。
こちらを気遣ってくれたときの声色は、とても穏やかだった。
臆病な彼に住み慣れた土地、そして蓮を手放すことを決断させた人物。
結城亮悟。彼のことが気になって気になって仕方がなくなってしまう。
「そうなんだ」
それだけ答えた後、蓮はまた少しだけ胸が苦しくなった。
気を紛らわせられるのかはわからないが、とにかく黙っているのが辛くて口を開く。
「それで、その先輩とはどこまで仲良くなったの?」
「……」
「……え?」
宵が無言で目を逸らすのを見て、蓮の顔がひきつった。
「嘘でしょ、宵まさか」
「まだ1回も……ちゃんと話せてないんだよおお……」
がっくりと肩を落とす蓮。しゅん、と胸の締め付けも一瞬で引いていた。
よく考えなくてもそれはそうだった。彼は数日前までクラスメイトの友人1人すらいなかったのだから。
蓮は宵の腕を掴み、勢いよく立ち上がった。
「ほら!行くよ!」
「え、え、どこに?」
「飛鳥のとこ!さっき亮悟先輩が誘われてるの見たの、混ぜてもらお」
「ええええ!?」
宵の絶叫が響く。
「でも、朝、断っちゃったよ!?」
「用事終わったって言えばいいじゃん!気にするな!」
ずるずるずると、そのまま引きずられる宵。
「ちょっと待って、自分で歩くよお……」
蓮の噴火したような圧。完全に押された宵は、抵抗することを許されない。
誰もいない廊下を抜け、自販機があるロビーを通り、曲がり角の先にある角部屋に到着した。ドアの前に立つと、まだ記憶に新しいフレグランスがほのかに香る。
「ほら」
蓮に小突かれ、ドアをノックする。
その時、宵はここに来たことを後悔した。
中の会話が漏れ聞こえてきたのだ。
「だーかーらー!胸だって胸!あの柔らかさは男にはねえんだよ!?」
「もうわかったから!大きな声出すな!」
硬直する宵。
だが、その会話が耳に入ったときは、既にノックしてしまった後だった。
「はい?」
聞こえてきたのは、叫んでいた2人とは違う、落ち着いた声。
亮悟だ。宵の心臓が跳ね上がる。
「あ、あの……!」
「ちょっと待ってね、こっち騒がしいからあまり聞こえなくて」
ドアが開く。宵の遥か下の方から、亮悟が顔を覗かせた。
「こんばんは。うるさくてごめんね」
「いえ……」
「遊びに来たんだよね?どうぞ」
亮悟が宵を招き入れる。次いで、大きな宵の後ろに隠れていた蓮も入った。
隠れていた蓮の姿を見た亮悟は、嬉しそうににこやかになる。
「あ!さっきぶりだね蓮くん」
「はい、お邪魔します……」
挨拶を返したまま、蓮は亮悟を見つめている。
じっ……と、彼が何者なのかを見極めるように。
「ん、どうしたの?」
自分から外れない視線が流石に気になり、亮悟が首をかしげた。
「いえ、なんでもないです……」
蓮は小走りで、宵の後ろについて行った。




