2日目4
放課後、蓮と宵は寮にいた。
夕飯を食べ、シャワーを各々済ませて宵の部屋にいる。何事もなく時間が過ぎていくなか、蓮は宵との約束を未だに思い出せないでいた。
「宵ごめん、実はまだ思い出せないんだけど、用事ってなんだっけ?」
とりあえず聞いてみる。宵はうーんと唸った。
「ごめん蓮、あれ嘘」
「嘘なの?」
「うん……」
宵は言いにくそうに口ごもる。
「飛鳥は良い人だと思うんだけど、やっぱり2人きりは心配で」
「そういうことか!ごめん、全然気が付かなかったよ」
もじもじと、体をひねらせる宵。まだ言いたいことがあるようだ。
「それに、先に宵が、蓮と2人でいたかったの」
素直な告白に、蓮の瞳はきらめいた。
親友から甘えられて、目の前の大型犬のような生き物が愛おしくなってしまった。
「そうだったの〜!?早く言ってくれれば良かったのに!」
わしわしと頭を撫でる。長い黒髪が鳥の巣のようになる反面、宵の表情は溶けているように穏やかになった。
「飛鳥と好きなものの話するの楽しい。
樹は優しいからどんな話も受け入れてくれるの嬉しい。
でも、蓮と適当に過ごしたり、会話がなくても心地よくだらだらしたりしたい……」
宵はカーペットの上に倒れた。
ここ数日のことで疲れたのか、デロデロに力が抜けていく。
「そうだね。僕も今夜はゆっくり過ごしたいな」
穏やかに微笑む蓮。
「その前に、ちょっと自販機行っていい?」
「宵の飲んでいいよ」
「ううん大丈夫!どうしても気になるのがあって。ちょっと行ってくるね」
蓮は1人、廊下に出てロビーへと歩きだした。
今日は金曜で外出が多いのか、まるで人とすれ違わない。
自販機が集まっているコーナーへ着くと、蓮はお目当てのジュースを買った。
「君、転校生の子だよね?」
穏やかな、落ち着いた声が話しかけてきた。
蓮が声のする方へと振り向くと、自分より下に目線がいく。
そこには1人、小柄な男が立っていた。
長めの黒髪、端正に整った顔立ち。温厚そうな柔和な表情で、彼は続ける。
「こんばんは。僕は寮長の結城です。結城亮悟。よろしくね」
「瀬戸口蓮です。よろしくお願いします」
蓮はぺこりと頭を下げる。亮悟も軽く顔を傾けてニコニコと応えた。
と思ったら亮悟は一瞬目を丸くし、そのまましばらく蓮の顔を見直す。
そしてすぐに蓮の手元に目線をずらした。
「それ、僕も気になってたんだよね。でも買う勇気なかったんだ。
後で感想教えてよ」
泥と砂利の背景にココアの水しぶき、ゴーヤとチーズが描かれていて、禍々しいデザインの炭酸飲料のペットボトル。蓮がそのパッケージを自慢げに見せつけてみると、亮悟は思わず苦笑いをした。
「じゃあ、何かあったら気軽に相談してね」
「はい。ありがとうございます」
亮悟は手を振り、さくっと去っていった。と思ったら廊下の角の向こうから、誰かと話している声が聞こえる。
「飛鳥、また君はそんなになって……」
「亮悟先輩ー、俺最近寂しいんですよー!構ってくださーい!」
「もうわかったわかった、仕方ないなあ」
なだめる亮悟の声と、やかましい声が響いている。
「あと樹も連れてきてください!あいつ先輩が誘ったら絶対来るんで」
「そうかなあ……?声掛けてみるよ」
飛鳥の作戦も丸聞こえで、蓮はつい吹き出した。
面倒見の良い先輩なんだな。そう思いながら部屋へ戻る。
「おかえりー」
「ただいま、今寮長さんと会ったよ」
その瞬間、ドタタタ!と大きな音をたてながら宵はひっくり返った。
辺りには可哀想な本や服、筆記用具が散らかりまくっている。
「結城先輩に会ったの!?」
「うん。何かあった?」
「いいいいいやなんでもないんだけど」
親友の勘は告げていた。
宵は、何かを隠している。
「本当は?」
インタビューをするように、拳を縦にして宵に近づく。
「えっ、えっ」
宵は息をするのも、やっとだというようだ。肩がぜえぜえと上下に忙しく動いている。
「……」
観念したようにうなだれる宵。
「あの人なんだ」
ぽつりと呟いた。
「宵が、この学校に来た理由」




