うれる
友里は売れた。世間は「いっぱい食べるのに痩せてる女優」を面白がった。
女性誌では「食べても太らない運動メソッド」という特集が組まれた。装置の接合部が痛むため、友里は運動をほとんどしないが、社長がでっち上げた運動メソッドが雑誌で紹介されていた。
その雑誌の読者たちは、その出鱈目な運動をしながら、ハンバーガーを頬張り、大半は太った。
ハンバーガー。フライドチキン。ポテト。ジャンクフードのコマーシャルが次々に決まった。女優としてドラマや映画に出るというより、テレビタレントとして人気が出た。
「本当に腹が減ってる女は、食い方に色気が出るんだよ」とスポンサーは言った。
そのうち、水着の仕事が増えた。
肩。腹。脚。痩せた身体を見せる仕事ばかりになった。
「健康的なセクシーさ」とスポンサーは言った。だが、友里はどんどん顔色が悪くなっていく。それでも食べ続けていた。食べても食べても腹が減る。
ある夜、休憩室に男が来た。友里が高校の頃から付き合っている恋人だった。事務所が隠している存在だ。
友里は気づかず、冷めた唐揚げを食べていた。
ぐちゅ……どゅる……
黒い鞄が椅子の横で脈打つ。男はしばらく黙って友里を見ていた。
「……それ、旨いか?」
友里の手が止まった。ゆっくり顔を上げる。笑おうとして、失敗する。
「もうわかんない」
初めて聞く声だった。男は痩せた顔を見つめた。頬の丸みは消えていた。昔の面影はもうない。
男は小さく言った。
「前のほうが、可愛かった」
友里は何も言わなかった。喉だけが、小さく動く。飲み込んだものは、身体のどこにも残らない。
ぐぽ……どゅりゅ……
黒い鞄だけが、生き物みたいに震えていた。




