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機械仕掛けのイソファガス  作者: 夏目有也


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2/5

やせる

 社長が友里を応接室へ呼んだ。部屋のドアは閉まっていたが、煙草の匂いだけが廊下まで漏れていた。

 一時間後に出てきた友里は、妙に静かだった。目が赤く充血しているようにも見えた。机の上には、短くなったセブンスターの吸い殻が何本も並んでいた。

 社長は戸井にだけ聞こえる声で言った。

「本人がやるってさ」

 友里は笑っていた。

「頑張ります」

 そう言った。だが、メンチカツを頬張っていた頃の笑い方ではなかった。


 三ヶ月後、友里は急に痩せ始めた。頬の肉が削げ、首筋が浮き、脚が細くなる。スタッフたちは「薬じゃないか」と噂した。戸井は、吐いているんだと思った。


 友里は以前より食べるようになっていた。ハンバーガーを二つ食べ、フライドチキンをつまみ、ポテトを口へ放り込み、シェイクを飲み干す。それでも数十分後にはまた何か食べている。

「お腹すいた」

 食べ終わった直後なのに、友里はそう言った。


 その頃から、友里は黒い鞄を持ち歩くようになった。ビニールコーティングされた安っぽい鞄だった。移動中も、撮影中も、メイク中も、絶対に足元から離さない。最初は化粧道具でも入っているのかと思った。だが、妙だった。

 鞄は時々、小さく震えていた。


 ある日、友里がトイレに立ったとき、鞄が椅子に置かれていた。


 ぐぽ……どゅる……ぐちゅ……ぐぽ、ぐぽ……どゅりゅりゅ……

  

 湿った音がする。地下の古い排水管みたいな、生暖かい音だった。中で何かが流れている。

 戸井が鞄に触れようとした瞬間、背後で椅子が倒れる音がした。

「触らないで!」

 友里だった。血の気の引いた顔で立っていた。呼吸が荒い。目が異様に見開かれている。友里は鞄を抱きしめ、そのまま壁際まで下がった。

「ごめんなさい……でも、触らないで……」

 震えていた。普通じゃなかった。


 それから一週間後の夜、撮影後に事務所へ戻ると、処置室の灯りが点いていた。普段は鍵がかかっている部屋だ。扉が少し開いていた。

 中で友里が椅子に座り、麺が伸びたカップラーメンを食べている。彼女のシャツの前が開いていて、腹が見えている。

 友里の腹部の横には、小さな開口部があった。そこから伸びた管が、床に置かれた黒い鞄の中へ繋がっている。

 鞄の口は少しだけ開いていた。透明な袋が見える。


 ぐちゅ……どゅりゅ……


 袋の中へ、咀嚼されたラーメンの麺が流れ込んでいた。

 社長が戸井の真後ろに立っていた。

「見たなら黙ってろ」

 煙草を咥えたまま言った。

「海外じゃ問題になったが、日本じゃまだバレてねえ。お前にはどうせバレるだろうから、いつか言わなきゃと思ってたんだが、最近忙しくて後回しにしてた」

 戸井は言葉が出なかった。

「食ったもんを、吸収前に抜く。栄養は別で入れる。簡単だろ」

 友里は、その間もカップラーメンを黙々と食べていた。油で光る指を舐めながら、それでも空腹そうな顔をしている。

 社長は笑った。

「脳がラーメンを食べていると認識しているのに、身体にはそれが入ってこない。それはおかしくなるに決まってる」

 

 ぐぽ……どゅるる……


 鞄の中で袋が脈打つ。

「だが都合がいい。食欲が落ちない。飢えてるから、食い方が本物になる。入れてる栄養剤は、ヘルシーだ。健康的に痩せる」

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