12.お団子
「そんなことがあったんですね。黎くんが無事で何よりです」
安堵した声に、黎は少し嬉しくなった。
黎はウカの屋敷に来て、伏見神社で起きた不思議な出来事についてミサキに話していた。少し離れたところで、ウカと姑獲鳥も聞いている。
「みこさんは、ああいうことに慣れてるの?」
手際よくみこが対処していたのを思い出し、尋ねてみると、ミサキとウカはなんとも言えないような表情になった。その様子を見て、黎と姑獲鳥は首を傾げる。
「みこちゃんは、昔から変なものに好かれるんですよ」
「今はそれほどではないが、神隠しにも遭っていたな」
「よく生きてるね、みこさん……」
遠い目をして話すミサキに、黎もなんとも言えない気持ちになった。神隠しについて詳しく知らない黎でも、なんとなくやばいことは悟った。それに遭ってなお、神職についているのは肝が据わっているのかなんなのかわからなかった。
「そうだ! 黎くん、明後日はお暇ですか?」
「明後日? 特に用事とかはないけど」
何かを思い出したかのようにミサキが黎に尋ねる。黎は少し考えたあと返事をすると、ミサキは嬉しそうに笑った。
「では、お月見をしましょう? 明後日は中秋の名月ですから!」
「する!」
思ったよりも大きな声が出てしまった黎は、慌てて口を手で押さえる。ミサキはそんな黎を見てクスクス笑っている。姑獲鳥も微笑ましそうに見つめていた。
「お団子作りも一緒にします?」
「いいの?」
「もちろんです! たくさん作りましょうね」
黎にとって、お月見をするという経験は初めてだった。そのため、とてもワクワクした表情をしている。
それを察したミサキも、嬉しそうに笑った。
「お月見団子だけじゃ飽きちゃうので、ほかの味も作りましょうね」
「他? あんことか?」
「そうです! あんこ、みたらし、いそべ、くるみ……他に食べたいお味はありますか?」
思ったよりも沢山の種類の味を言われ、少し戸惑う黎。団子といえば、あんこやみたらしのイメージしか無かったため、他にと言われても思いつかない。
「今の時期だと、栗もよいのではないか?」
「いいですね! 栗! あとは、きな粉とかもいいですよね」
と言われても、黎は頷くことしかできなかった。
なんといえばいいか分からなくなった黎は……
「ミサキちゃんの作るものは、なんでも美味しいから楽しみ」
なんて、最適解を叩き出した。
それを聞いたミサキは嬉しそうに笑って、黎の頭を撫でた。
「たくさん美味しいものを作りますね」
ご機嫌なミサキの声と、優しい手に黎は明後日がとても楽しみになった。




