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10.安全?

今日も施設の職員に色々と言われる。


「進学するなら、早く決めなさい」


「ここの学校が良いのでは?」


「頭がいいから、こっちの進学校も行けますよ」


 なんて言ってくる。余計なお世話だと、黎は思っていた。毎日飽きもせず聞いてくるせいで、いい加減鬱陶しい。

 学校終わり、朝の出来事を思い出し施設に帰る気分ではなくなった黎は、踵を返し、ミサキに教えてもらった神社へと向かった。姑獲鳥はこの頃、前ほど黎に着いてこなくなったため、今日は居ない。どこで何をしているかも知らない。


 今日の伏見神社も参拝者が多く居た。

 ウカにはいつも会っているが、こういうちゃんとした所で挨拶はしたことがないことを思い出し、なんとなく参拝の列に並ぶ。

 黎の番に来たので、賽銭を投げ入れ二礼二拍手一礼をして挨拶をする。こういう所に来たことがない黎は、作法が合っているかドキドキしながら行っていた。


 参拝の列から逃げるように離れ、東屋で休憩をする。遠くの方から、鈴の音や笛の音が聞こえてくる。それに耳を傾けながら、目を閉じる。優しい風が、黎の頬を撫でていた。


 風を感じながら微睡んでいると、砂利を踏む音が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。周りを見渡すが、誰もいない。気のせいだと思いまた目を閉じると、今度はさっきよりも近くから砂利を踏む音が聞こえた。


「誰か、いるの?」


 恐る恐る黎が声をかけるが、返事もなく足音も聞こえなくなった。

 ミサキが安全と言っていたので、怖いことや恐ろしいことが起こるとは思っていない。だが、少しだけ警戒してしまった。

 じっと東屋に居るのも怖いため、黎は立ち上がり境内を散策することにした。


 お守りや御札を頒布しているところは、見ているだけでも楽しかった。色々なおみくじもあり、少しだけ興味をそそられた。

 水みくじや、花みくじ、宝石みくじなど様々なものがあり、目移りしてしまう。

 お守りも透明なお守りやブレスレット型のお守りがあり、「こんなものもあるんだ」と思った。その中に、ミサキがよく作っているミサンガもあり、思わず「あ……」と声を上げてしまった。慌てて口を塞ぎ周りを見渡すが特に誰も気にしていないようで安心した。


「これ、ミサキちゃんが作ってるやつ」


 端の方には『鈴守り 予約受付』というPOPもあった。鈴守りの写真は、黎が腕につけている鈴によく似ていた。


「これも、ここで買えるんだ」


 店頭に置かず、予約受付ということは人気なのだろうか? と首を傾げるが、今聞ける人もいないため後でミサキに聞こうと思い、その場を後にした。


 一通り見て回った黎は、また東屋に戻ってきていた。

 何となく、帰る気分にならなかったため、もう少しだけここにいようと考えていたのだ。


「ミサキちゃんに、早く帰るように言われたんだけどな……」


 そんなことを呟きながら、東屋の屋根を見上げる。よく見ると、屋根には幾つかの模様が刻まれていた。柱の方にも目をやると、同じような模様があった。目立たないように彫られているその模様は、美しく、よく見ると六芒星のような模様だった。


「この模様、なんだっけ?」


 黎は、どこかで見たことのあるこの模様について考えていた。記憶を探り思い出そうと必死だったその時、後ろの方から砂利を踏む音がまた聞こえた。

 バッと振り返ると、そこには紫色の袴を履いている男が立っていた。黎は一瞬、神社の人かな? と思ったが、様子がおかしいことに気づいた。


「あの……」


 声をかけるが、その人は東屋の入口に立ったまま入ってこない。黎はどうしていいか分からず、座ったまま動けずにいた。


「あの、何か用ですか?」


 再度声をかけるが、反応がない。だが、ジリジリと近づいているような気がした。

 怖くなった黎が立ち上がろうとした時、後ろから目を覆うように手で隠された。驚き、跳ね除けようとした時、知っている声に手を止めた。


「しー……そのままですよ」


 優しい声に続いて聞こえたのは、鈴の音。シャンっと鳴った瞬間、強い風が吹いた。

 手は外され、後ろを向くとそこに居たのは学生服姿のみこだった。


「もう大丈夫ですよ」


「あ、えっと」


 東屋の入口を見ると、先程の男は居なくなっていた。


「もう遅い時間ですから、送りますね。帰りましょう」


 みこはそう言い、黎の手を引く。その引き方がミサキに似ていて、少し不思議な気持ちになった。


「あの、ありがとう、ございます」


「いいえ、いいんですよ。でも、早く帰らないとダメですからね」


 諭し方も、ミサキに似ていた。

 黎よりも少しだけ背の高いみこの姿が、ミサキと重なって見え、何故だろうと思いながら、ただ手を引かれるまま歩いていた。

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