09.巫女と狐
「ミサキ様、おかえりなさいませ」
「みこちゃん、ただいま帰りました!」
ミサキは黎を施設まで送ったあと、伏見神社に一人で戻ってきていた。
それをわかっていたみこは、鳥居の前までミサキを迎えに来ていた。
「どのようなご様子でしたか?」
みこはさりげなくミサキをエスコートしながら、参道を歩く。夕方だが、まだチラホラと参拝者の姿が見える。みこは参拝者と目が合うと、小さく会釈をしていた。
「黎くんなら、気に入ったみたいでしたよ! でも、時折周りを気にしているようでした」
「本当によく見える方なのですね」
今日、伏見神社を訪れた参拝者には、何かに憑かれている人が多かった。そのせいだろうと、みこは思う。
一応、ほかの参拝者たちに害が及ばないように、その手の専門家に結界を張ってもらっている。完全に見えなくすることはできないが、見えづらくすることはできているはずだ。
「次までに結界の改善をしておきますね」
「ありがとうございます! 凄く助かります!」
そんなことを話しながら、社務所に入っていく。社務所内にいる巫女たちや事務職員たちに挨拶をしながら奥の部屋まで行く。
何故か、ミサキの姿はみこ以外に見えていないようだった。
「そういえば! みこちゃん、ご相談したことけいくんにはお話しましたか?」
お茶を入れてくれるみこの背に、ミサキは問いかける。
相談とは、黎の後見人の話だった。ミサキとけいと呼ばれた男はなかなか会うことができない。みこを介してなら難なく会えるのだが、それよりも伝言を頼んだ方が早いため、今回も相談をみこからしてもらったのだった。
「しました。けいくんにお伝えしたところ、良いとのことですよ」
「え、そんな簡単に言います?」
「けいくんですからね」
「……たしかに、けいくんですもんね」
なんとも言えない微妙な顔をした二人は、お互い顔を見合わせて笑い出した。
「でも、一度ちゃんと会いたいとも言っていました」
「ですよね! 良かった、会わなくていいとか言われたら、黎くんになんて言えばいいか困るところでした」
「流石に会わずに決めるのは、私も止めますよ」
そんなことを穏やかに話していると、戸をノックされた。みこはミサキの方を見て入れても良いかを確認する。ミサキが一つ頷くと、みこは「どうぞ」と言いながら、戸の方に向かった。
「みこ様、お話中失礼いたします」
「何かありましたか?」
「連絡事項をお伝えに……みこ様、おひとりですか?」
そう言いながら部屋の中を見渡す事務職員に、みこは軽く微笑むだけ。事務職員は、二つ置かれている湯呑みを怪訝な目で見ていた。
「それで、連絡事項とはなんでしょうか?」
「あ、はい、来月のことで」
「それでしたら、私ではなくお父様へお伝え願います。来月は私ではなくお父様が出席予定ですので」
「そうだったんですね! 失礼しました。……それじゃあ、私はこれで」
「はい、お手数おかけします」
みこはそう言いながら見送った。事務職員は最後まで不思議そうに室内を見渡していた。
事務職員が出ていったあと、みことミサキは顔を見合わせて笑った。
「初めて見る子でした。新しく入った子ですか?」
「そうなんです。会う度に不思議がられそうです」
よくあることなので、みこはまったく気にしていない。それどころか面白がっているようにも見える。
「みこちゃん、イタズラは程々にですよ」
「ミサキ様酷い! そんなことしません」
みことミサキは、まるで長年の友達のような距離で話している。
実際は、祀っている眷属とただの巫女であるというのに、それを感じさせないような間柄だった。




