07.伏見神社
次の日――
黎はミサキに連れられて、神社に来ていた。ここが、昨日ミサキが言っていた『避難場所』らしい。
伏見神社は、宇迦之御魂神を祀る神社であった。正真正銘、ウカと縁が近い神社である。
総本宮は京都にあるらしいが、参拝者が多く訪れるここも、人が絶えない。
黎はミサキに手を引かれるまま、歩いていた。
「今日も人が多いですね」
「いつもなの?」
「いつもですよ。ここの方々はとても優しい方が多いので、そのせいもあるかもしれませんね」
笑いながら話すミサキは、とても楽しそうだった。
黎の目には、色々なものが映っていた。ただの参拝者の中に人ではないものがいたり、ふわふわと漂う光や影、果てには取り憑いているものまで視えていた。視えるのが嫌になった黎は顔を伏せ、ミサキだけを見ていた。
「あ、みこちゃん!」
いきなり、グイッと引っ張られた手に黎はたたらを踏んだ。黎は、ミサキが呼んだ名前に聞き覚えがあった。ミサキの目線の先には、あの時の女性が立っていた。その女性は巫女服を着て、長い髪を一つにくくっている。
ミサキを見つけたその女性は、小さく手を振っていた。
「あの人は、巫女のみこちゃんです」
「巫女のみこ……」
なんと覚えやすい名前だろうか……と、黎は思った。
「みこちゃんがいるここは、ウカ様のお屋敷の次に安全なところですよ。奥に東屋があるので行きましょ」
「東屋?」
手を引かれるまま歩きながら、黎はふとみこを見る。小さく手を振りながら優しく微笑むみこに、なんとも言えない気持ちになり、思わず顔を逸らした。
「ここが、東屋」
神社の敷地内であるが、少し離れたところは人もいなくとても静かだった。
柱と屋根だけの、簡素な休憩所である東屋は丁寧に手入れされているのがわかるほど、綺麗だった。二つの長椅子に、ミサキと黎はそれぞれ腰を下ろした。
「ここ、静かだね」
「そうなんですよ、とても静かで良いところです。みこちゃんとは、ここでよくお話します」
足をプラプラ揺らしながら、楽しそうに話すミサキの言葉に疑問を抱く。
「よく話すってことは、ミサキちゃんの知り合いの人間って、あの巫女さん?」
黎は、ミサキが前に話してくれたことを思い出した。「会わせたい巫女がいる」それが、おそらくあのみこと呼ばれた、黎を助けてくれた女性だと確信した。
「はい、みこちゃんです。ですが、それはまた今度」
「え?」
「今は、黎くんの避難場所を探していただけですので、みこちゃんとお話するのはまた今度にしましょう」
黎に気を使うようなミサキの言葉に、黎は少し嬉しくなった。
まだ会うかどうかを決めきれていない黎。そんな黎が今会ったところで、上手く話せるはずもなかった。それを理解しているミサキは、黎を焦らせることはなく、ただ休めるところを教えてくれただけ。しかも、ウカの屋敷の次に安全なところを……
「ミサキちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。あ、でも暗くなる前には帰るんですよ?」
「うん、わかった」
そのまま、二人はたわいもない話をしながらのんびりと過ごした。
その様子を、遠くの方からみこが微笑ましそうに眺めていたのは、ウカしか知らない話だった。




