04.女神の訪問
春の優しい風が吹く昼下がり。ウカは1人、静かに仕事をしていた。
眷属である白狐たちに集めてもらった、情報や願いを選別したり、優先度を決めていく。
優先度が高い低いは、そこまで大差はない。願われたなら叶えてやる、それが願った者にとって良縁か悪縁かは、ウカの知ったことでは無いので。
子供の行方が知りたい
子供が行方不明になったので、ご縁を賜りたい
大事な子供を返してください
やけに子供についての願いが多いなと、ウカは首を傾げた。各地に居る白狐たちの情報によると、ここ2週間程で子供の行方不明が増えているらしい。警察たちも捜索しているが、2週間も経っていれば生きてるかは怪しいところだろう。
どうせまた、天狗や隠れ座頭の仕業だろうとウカは考えた。
この者たちは、夕暮れ時や夜道を1人でいる子供を攫うことがある。しかも昔から。
天狗どもなんかは、人を攫うことが出来れば1人前だという決まりを作ったとか作らないとか…あった気がするという、信憑性が低い昔聞きかじったようなことを思い出した。
縁を繋いでも良いが、隠されてしまってはその繋いだ縁も意味がないだろうなと、1人肩をすくめた。
辿り着けたところで、人間が生きて帰れる保証はどこにも無いのだから。
「さてどうしたものか」
ウカは、大きなため息をついた。
コンコンと戸を叩く音が聞こえ、そちらへ顔を向ける。
「主様、お客様がお見えです」
抑揚の無い声が、ウカの耳に届く。
客だと?そんな予定はなかったはずだがと、眉間に皺を寄せる。
仕方ない、こちらは後回しだ。
音もなく立ち上がり、戸に手をかけ開く。
式神が頭を下げるのを横目で見て足を踏み出した。
「客間か?」
「はい、お2人お通ししました」
振り返りもせずに問いかけると、すぐに答えが返ってくる。
それにしても、約束もなくやって来るのは知り合いの神共かそれとも別のやつか…どちらにしろ、今日は仕事どころではないなと、内心ため息をついた。
客間につくと、中から可愛らしい声が2つ聞こえた。
その声を聞いたウカは、猛烈にミサキに会いたくなった。この戸を開いたあとのことを考え、癒しが欲しいと思ったからだ。残念ながら、ミサキは今、屋敷にはいない為その考えも虚しく叶うことはない。
意を決して、戸を開けるとそこには美しい女性が2人、揃って座っていた。
1人は長い黒髪をサイドから編み込むようにまとめハーフアップをして、花の髪飾りをつけている。桜色の瞳の中には花が咲いていた。まるで生花を閉じ込めたかのように美しい花が。
春らしい色合いのレースの服は、白い彼女の肌を引き立たせて居るようだった。
彼女の名は佐保姫。春を司る女神である。
もう1人は、ニコニコと笑いながらウカを見ている。
撫子色からコーラルピンクへのグラデーションの美しい髪に、宝石を閉じ込めたかのような桜色の瞳。緑とピンクの無地の着物を着ており、帯は桜の刺繍がされている白の帯。華やかさはそこまでないはずなのに、彼女の美しさのお陰で、華やかに見えていた。
彼女の名は木花咲耶姫
最も美しいとされる女神である。
美しくも恐ろしいこの2人の女神。
何故ここに、と目を見開いてしまったのはウカの失態であった。
佐保姫と咲耶姫は、そんなウカを見て満足そうに笑った。
「ごきげんよう
宇迦之御魂神に、春のご挨拶に参りました」
「愛しのお嬢様は一緒じゃなくて?」
約束もなく、いきなり来たところを見ると、ウカとミサキの様子を見たかったからだろう。
ウカはそんな2人の思惑を読み取り、頭を抱えた。
「悪いが、ミサキは木の子たちとたけのこ堀りに出掛けたぞ」
「あらぁ、そうでしたか。待ってたら会えますか?」
「そうね?一目でもいいから、会いたいの
待っていても良くて?」
「ダメと言っても居座るだろう」
自由な女神たちのことだ。ウカが何を言ったところで、ミサキが帰るのを待つことだろう。それなら何も言わずに好きにさせていた方が得策だと考え、ウカもその場に座る。
「元気にしておりましたか?」
「変わらず。そちらも元気そうで」
佐保姫は、春を司る女神。夏、秋、冬にもそれぞれ女神がおり、その4人を『時の流れの象徴』と呼び、人々から親しまれていた。
その為、春にしか会うことは無い。こうして挨拶に来たのも、冬の女神から佐保姫にバトンタッチしたことの報告も兼ねているのだろう。
「庭の桜も綺麗に咲いているわね」
「式とミサキが丁寧に育てているからな」
咲耶姫が慈しむような目でウカを見る。
その目がくすぐったくて、恥ずかしくて…思わず顔を背けた。
そんなウカの様子に、佐保姫も咲耶姫もクスクスと顔を見合わせて笑っていた。
(早く帰ってこい)
ウカは心の中で切実にそう思っていた。




