02.一本だたら
ミサキは何とか顔にくっついていたちいさな妖怪たちを引き剥がし、木の子たちを落ち着かせる。
「木の子ちゃんたち、大丈夫ですよ。この方は怖い方ではありませんからね」
よしよしと、一人一人の頭を撫でながら言うミサキを、大きな一本足の妖怪は黙って見ていた。
何とか落ち着かせることができ、ミサキは安堵の息を吐いた。
そして、
「こんにちは、一本だたらさん!」
と、元気よく一本足の妖怪に挨拶をする。その顔は満面の笑みだった。
ミサキの笑顔が眩しかったのか、一本だたらと呼ばれた妖怪は、一つしかない目をぎゅっと瞑った。
その様子に、ミサキは笑顔のまま首を傾げた。
「久しぶりだなぁ〜」
そう言いながら、大きな手でミサキの頭を撫でる。ミサキの頭など鷲掴みしてしまいそうなほど大きな手は、意外にも優しかった。
木の子たちのことも撫でようとしたのだが、未だに警戒されており、「手を出したら噛み付くぞ」と言わんばかりの唸りよう。それを見たミサキと一本だたらは、顔を見合わせて笑った。警戒心が薄いちいさな妖怪たちは、大きな一本だたらの体によじ登ってキャラキャラ笑っていた。
『一本だたら』
それは、日本の紀伊半島の山中に伝わる、『一つ目』『一本足』の恐ろしい妖怪として言い伝えられてきた。
だが、そんな言い伝えとは裏腹に、普段は優しく面倒見が良いただのおっちゃんだった。
なぜ恐ろしいと言われているのか。それは、冬の山の恐ろしさを、一本だたらの仕業とし、警告しているからであった。
昔は、冬の山で亡くなった者は、「一本だたらに食われた」などと言われていた。それが今でも伝わっており、1月から2月の冬が厳しい時期には、一本だたらが暴れているから山に行かないようにと言われている。
「一本だたらさんがこちらまで来るなんて、珍しいですね」
「そだなぁ〜、ちょいと相談があってなぁ〜」
「? ウカ様にですか?」
ミサキの問いに一本だたらが頷く。その顔はどこか困っているようにも見えた。
ウカに頼むほどの大事なのかと、ミサキは考えたが、それにしてはあまり焦った様子は無い。
とりあえず、ウカの元に連れていくため、ちいさな妖怪たちと木の子たちとは、ここでお別れをした。
いやいやされ、少し時間がかかってしまったのは仕方がないと、ミサキは思った。
「悪いなぁ〜」
「大丈夫ですよ」
「だがぁ〜、遊んでいたんだろぉ〜?」
一本だたらとミサキは手を繋ぎ、ウカの屋敷へと向かっていた。
一本だたらは、自分のせいで遊びを邪魔したと思い、謝罪をするが、ミサキは笑顔で「気にしないでください」と伝える。
「遊んでいたと言うより、散策をしていただけなので!」
元々、ミサキは一人で山の中を散策していた。
夏から秋に移り変わったことで、山の実りを確かめたかったから。その道中で、木の子たちと出会い、一緒に散策していたら、ちいさな妖怪たちまで増えたという経緯を話すと、一本だたらは一つだけの目を細め「そうかぁ〜、そうかぁ〜」と頷いていた。
その顔が優しく、お父さんのようで、ミサキの心はなんだか暖かくなるようだった。




