03.案山子神
「ただいま帰りました!」
ミサキは、一本だたらと手を繋ぎウカの屋敷へと戻ってきた。
それを出迎えたのは、式神たち。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「一本だたら様、こちらへどうぞ」
「お嬢様、手を洗いましたら主様の元へ」
「はーい!」
「ありがとぉ〜なぁ〜」
一本だたらは、式神に連れられてウカの元へ、ミサキは、手を洗いに手洗い場へと向かった。
手を洗ったあと、式神から貰った水を飲んで、ウカの元にパタパタと足音を鳴らしながら向かう。
戸の前で身を正したあと、声をかける。
「ウカ様、ミサキが参りました」
すぐに入室の許可が入り、戸をゆっくりと開けると、ウカが手招きしていた。ミサキは嬉しそうに駆け寄ってから、抱きついた。ウカも優しく抱きしめ返している。
「ただいま帰りました、ウカ様」
「無事で何より」
戯れが終わり、ウカと共に正面を向くと、一本だたらが座っていた。その目は優しく、微笑ましいものを見る目をしていた。
ミサキは少し恥ずかしくなり、小さく笑みをこぼす。
「それで、わざわざ来て何用だ」
「実はなぁ〜? 案山子神から伝言を頼まれたんだよぉ〜」
「案山子神様から?」
案山子神とは、知恵と知識の神様で、足がなく歩けないにも関わらず、田んぼに立って一日中世の中を見渡しているため、天下の事をすべて知っているとされる、とても不思議な神様である。
自分で動くことができないため、普段ならば眷属の雀や烏に伝言を頼むのだが、今回はどういうわけか一本だたらに頼んだようだ。
「なんでもなぁ〜? 今年は少し実りが悪くなりそうなんだよぉ〜。力を貸してくれねぇ〜かって、相談なんだぁ〜」
一本だたらの言葉に、ウカは神妙な顔で頷いた。宇迦之御魂神と案山子神は、昔なじみの関係だった。ウカは存外、昔からの友人を大切にする。
会うと雑に対応するが、それは親しいからできることなのだろう。
「今年の夏は暑かったですからね」
「稲の方にも影響が出たか」
今年の夏は異常に暑かったせいで、田畑に影響が出ているようだ。それは、稲作の方も例外ではなかった。
「分霊を行かせるか」
「はい! 私が行きます!」
「却下」
ミサキが元気よく手を挙げて立候補するが、素気なく却下されてしまった。ミサキは頬をふくらませながら理由を問うと、「まだ早い」と言われてしまう。
ミサキは、ウカの眷属でもあるが、代行者として『豊穣の力』を使うこともできた。だが、まだ未熟なため、却下されてしまうのも致し方なかった。
「また今度、遊びに来いなぁ〜?」
「はーい」
一本だたらの言葉に、ミサキは不貞腐れながらもきちんと返事をした。ウカは、その様子を仕方ないと言わんばかりの目で見ながら、一本だたらに分霊を送る旨を伝えた。
「お前はすぐに帰るのか?」
「いんやぁ〜? 少しこの山を探索してから帰るかなぁ〜?」
「でしたら、ご飯はお屋敷でお食べください! ウカ様、良いですよね?」
「好きにしろ」
「やった!」
両手を上げて喜ぶミサキに、一本だたらはお礼を言う。
ミサキは、一本だたらに何を食べたいか? 嫌いなものは? 好きなものは? と質問攻めだ。それにおおらかに答える一本だたら。
ウカは、それを眺めながら、分霊を案山子神の元に送るのだった。




