46.休まる場所
長期休み明けのテストも、いつも通り満点を取れると思う。
しょうもないミスがなければだけど……
休み時間に、本田が見せてくれた「本当にあったかもしれない話」のアカウントには、俺とせんかのことが書かれていた。
まるで、ずっと見ていたかのような書き方で、ゾッとしてしまった。そのせいで、澤田たちには余計な心配を掛けてしまった。
帰りに声をかけてくれた澤田に、うまく笑えていたか分からない。
夕方から夜にかけての時間が怖くて、早足に施設へ帰る。視界の端に映る黒い影を無視して……
施設に帰ると、姑獲鳥が「おかえり」と言ってくれるのに「ただいま」と返しながら部屋に入り、着替えをする。
姑獲鳥との関係は、傍から見れば親子のように見えることだろう。それほどまで、自然に接することができるようになった。……これは、姑獲鳥の姿が見えればの話なのだが。
明日は休日。
本当になぜ、学校の始業式は休みの前日なのだろうか?
月曜日からも憂鬱だが、金曜日や木曜日からの学校も正直言ってしんどい。長期休み明けだから、余計にそう感じるのかもしれない。
「アシタノ、ジュンビ、デキタ?」
「うん。……あ、課題持って行かないと」
明日は姑獲鳥と一緒に、ウカの屋敷に行く。このところ、ずっと行っているが特に文句は言われない。
それどころか嬉しそうにしてくれるから、俺としても行きやすくてありがたい。
(ご飯、何作ってくれるかな……?)
と、少し期待しながら通学鞄から課題を取り出し、屋敷に持っていくリュックに入れる。
その時、ピラリと紙が一枚落ちた。
落ちた紙には、『進路希望調査』と書かれていた。その文字を見た黎は、一気に現実に引き戻された。
結局、何も書けなかったその紙を、提出することもできなかった。
担任の先生は、黎の事情を少しばかり知っている。だから特に何も言われなかったが、休日明けには、さすがに提出しないといけないだろう。
黎は、重く苦しい気持ちを吐き出すように、大きくため息をついた。
……ニンゲン、キタ
……ニンゲン、アソベ
……ニンゲン、アソブ
「うわっ! ちょ……!」
ウカの屋敷がある山に入ると、木の子たちが熱烈な歓迎をしてくれた。
四方八方から飛びつかれ、黎は驚きの声をあげて、後ろに倒れた。その様子が面白かったのか、木の子たちは笑っている。
姑獲鳥は心配そうに声をかけてくれるが、顔を覆うように抱きつかれているため、モゴモゴとするだけで何も言えない。
引き剥がそうにも、子供とは思えない力が込められていて、ビクともしない。どうしたものかと考えていると、ガサリと後ろの方で音が鳴った。
「木の子ちゃんたち〜? どこに……え!? 黎くん!?」
誰が来たのかと身構えたが、ミサキの声が聞こえ、ほっと体の力を抜く。
ミサキはアワアワしながら、黎から木の子たちを引き剥がし、「めっ!」と叱った。
木の子たちは、分かっているような、分かっていないような曖昧な返事をしながら、ちりぢりに消えていった。
こういうところを見ると、黎が関わっている者たちは本当に人間ではないことがわかる。
「黎くん、木の子ちゃんたちがごめんなさい……」
「ううん、大丈夫。助けてくれて、ありがとう」
「ミサキチャン、アリガト」
シュンとしながら謝るミサキだったが、黎と姑獲鳥の言葉を聞くと、嬉しそうに微笑んだ。
「ミサキちゃんは、山で何してたの?」
「スゴク、メズラシイフク」
軽い雑談をしながら、三人で屋敷へ向かう。
今日のミサキは、黒い無地のTシャツに白いキュロットスカート、スニーカーという、珍しい服装だった。
「少し収穫をしていまして」
楽しそうに話すミサキに、黎も姑獲鳥も首を傾げる。
「ご飯の時のお楽しみですよ」
なんて言うから、知りたくても聞けない。
黎は、ご飯の時間が待ち遠しくなり、無意識のうちに歩く速度が速くなった。
それを察したミサキと姑獲鳥は、クスクスと笑いながら、黎に合わせて屋敷へ向かった。




